炎の如き号泣が持続するギャン泣きプリンセス

特に鮮烈に覚えているのが、アフガニスタンから来たばかりの3歳の女の子だった。顔から零れ落ちんばかりの大きな茶色い瞳と長いまつ毛。お人形さんのような子どもだったが、この子の泣きっぷりときたら破壊的であった。母親から離されるときに子どもが泣くのは、不安で悲しいからだ。が、それ以前に、その行為はレジスタンスでもある。「行きたくない、母親と一緒がいい。お前なんか大嫌いだ、ふざけんな」という必死の抵抗運動であり、知らない大人と時間をともに過ごさねばならない理不尽に反対の声をあげているのである。

その点では彼女は素晴らしいアクティヴィストだった。世の不条理に沈黙せず、あくまでも抗う勇気と気概を持っていた。だが、その反抗のスピリットはかつて見たこともないほどずば抜けていて、「ぎゃーーー、うぎぎぎぎーーー」と彼女が泣き始めると、コミュニティセンターの事務員や別室でヨガを教えていたインストラクターなどがびっくりして見に来た。幼児虐待が行われているのではないかと心配したのである。

しかし、彼らがプレイルームに来てみれば、保育士たちがギャン泣きプリンセスの足元にかしずき、「ほら、このおままごとのカップかわいいでしょ~」だの「お絵描きやってみる?」だの言って必死で機嫌をとろうとしている。彼女の凄みはその炎の如き号泣が持続するところにあった。ふつう、幼児たちは15分とか20分とか泣き続けたとしても、保育士に抱きあげられると落ち着いたり、ちょっと気を引かれる玩具を見つけて遊び始めたりする。しかし、彼女はけっして騙されなかった。

ムカつくものはムカつく、求めるものを手に入れるまでは何時間でも不屈のレジスタンスを続ける。孤高の抵抗運動家である。でも、できればあんまり移動型託児所のような場所にはいてほしくない。