これからの人生で繰り返し読む一節

セネカはイエスとほぼ生年が同じである。彼はカリグラ、クラウディウス、そしてネロという、悪名高い3人の皇帝に仕え、ご意見番として権力の近傍にありながら波乱万丈の人生を送った。流刑と名誉回復。蓄財と財産返還。クラウディウスが脱糞の最中に死ぬと、天界の神々はいっせいにこの独裁者の到来を拒絶した。彼は心ならずも冥界に降下して嘲罵の対象となった。セネカはこうした諷刺戯作を平然と発表した。いかに賢人といえども、このような気質の者が畳の上で死ねるわけがない。最後にはネロの手で悲惨な自決を命じられている。

わたしは徐々に流れに足を取られてしまい、落ちていくのではないでしょうか。いや、もうすでに、自分が認める以上に落ちて行っているのかもしれません。人は、他人の追従によってより、自分の自分に向ける追従によって滅びることの方がはるかに多いからです。この船酔いのような苦しみを押さえてくれる薬はないでしょうか。こうした若者の訴えに対し、セネカは答える。

人にはいわなかったが、自分もまた同じことに悩んできたよ。だがそれは、長い間の重い病気から回復した者が、その後で微熱や軽い不快に捕らわれるたびに、すでに健康であるにもかかわらず、大げさに医者に訴えるのと同じなのだ。その人は健康でないのではなく、ただ健康に慣れていないだけなのだ。自分を攻め立ててはいけない。あちらこちら、さまざまな方向へと走る人々の動きに巻き込まれず、自分は正道を歩いているのだと信じることだ。おのれを高めも低めもせず、つねに平坦な道を歩むことだ。

「心の平静について」にある一節を要約してみた。おそらくわたしはこれからの人生で、この一節を繰り返し読むことになるだろう。

セネカ『人生の短さについて』(岩波文庫 茂手木元蔵訳 1980年)

陰謀渦巻く初期の帝政ローマを生き、自殺によって69年の生涯を終えたセネカ。政治家でもあった哲人は、人生の荒波のなかで思索を続けた。その叡智が代表作「人生の短さについて」「心の平静について」「幸福な人生について」3篇に結実している。

※現在入手しやすいものは、大西英文訳『生の短さについて』(岩波文庫)、中澤務役『人生の短さについて』(光文社古典新訳文庫) など

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