「一期一会」を正確に英訳することはできない

あのときああいうことが起きなければ、もしもこうなっていれば、そうすれば間に合った、もう一度だけお会いすることが叶ったかもしれない、と考えてしまうが、きっとそうなるようになっていたのだろう。

一期一会、という言葉がある。

たぶんこの言葉を正確に英語にすることはできない。4人の英国人に説明して英訳を求めたら、「Once in a lifetimemeeting?」とか「Destiny?」とか言っていた。そこまで大げさなことにはしたくないが、たった一度だけ触れ合った人の言葉だからよけいに心に残ることがある。

本の書き手や送り手たちは、何万部売れたとか、何回重版されたとか、すぐそういうことを気にする。だけど本は売るだけのものではない。こういうものばかりが売れるのでは世の中がダメになると売り場に立つ人が考えるような、特別なものだ。

絵=平松麻

本が世の中からなくなるのは、その特別さを失ったときかもしれない。

「街の本屋さん」から教わったことをわたしは考え続けている。