《メメント・モリ(頭蓋骨と自画像)》1926年 木版 362×633mm

 

メスキータ

6月29日〜8月18日
東京ステーションギャラリー
☎03・3212・2485
※以降、千葉に巡回

妻とともにアウシュビッツで殺されたアーティスト

19世紀後半から20世紀前半にかけて、デザインやアートの分野で活躍したオランダのアーティスト、サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868-1944)。本展は彼の、我が国初の本格的な回顧展だ。

筆者自身、メスキータという木版画家の存在を、昨年6月に開催された「ミラクルエッシャー展」で初めて知った。その展覧会で、彼が美術学校であのだまし絵の天才エッシャーに木版画を教えたことや、ホロコーストの犠牲者であったことなどが紹介されていた。

ポルトガル系ユダヤ人であったメスキータは、1944年1月末にナチスに捕らえられ、3月には妻とともにアウシュビッツで殺されてしまう。その18年前に彼が制作した、頭蓋骨と向きあう自画像《メメント・モリ(頭蓋骨と自画像)》は、自らの運命を予見していたかのような、不穏で不気味な作品だ。

《ヤープ・イェスルン・デ・メスキータの肖像》1922年 ©Jan Zweerts/Collection C. O. Wolters

メスキータが連れ去られたあと、エッシャーら彼の教え子たちは、アトリエに残された師の作品を命がけで保管し、戦後は展覧会を開いて、その名前が忘れられないよう尽力した。神経質そうな画風からは想像できないが、これほどまでに生徒たちに慕われていたメスキータは、愛情深い人物だったと推察される。

染織のデザインを手掛けるなど、デザイナーとしても活躍していた彼は、息子を描いた《ヤープ・イェスルン・デ・メスキータの肖像》や、白黒のコントラストが観る者に強い印象を与える《シマウマ》、羽毛の1本1本が美しい模様のような《ワシミミズク》といった作品など、数多くのグラフィカルな木版画も制作した。彼の特徴である、単純化された力強い構図や、装飾的で平面的な造形には、日本の浮世絵版画の強い影響があるという。そんな話に、「知られざる画家」だったメスキータが、急に親しみ深く感じられるのは、私だけではないはずだ。

 

特別企画
奈良大和四寺のみほとけ

〜9月23日
東京国立博物館 本館
☎03・5777・8600(ハローダイヤル)

飛鳥、奈良時代の仏像や経典を紹介

奈良の寺院といえば、約1300年の歴史を誇る東大寺や興福寺が有名だ。これらは8世紀前半の平城京遷都に伴って、現在の近鉄奈良駅近くに建立された古刹(こさつ)だが、さらに時代をさかのぼった7世紀には、岡寺(おかでら)や安倍文殊院(あべもんじゅいん)などが建てられていた。本展では、飛鳥時代政治の中心地だった奈良県東北部に点在する、岡寺、室生寺(むろうじ)、長谷寺(はせでら)、安倍文殊院の素晴らしい仏像や経典16点を紹介する。

岡寺に伝わる8世紀の重文《菩薩半跏像》から、16世紀につくられた長谷寺の重文《赤精童子(せきせいどうじ)(雨宝童子)立像》まで、各寺、各時代の御仏がそろうなか、ひときわ優雅な仏像が室生寺の国宝《十一面観音菩薩立像》だ。ふっくらとした頰に優しさと威厳をたたえたこの像は、豪華な装身具も美しい。女人禁制だった高野山に対し、女性の参詣を許した室生寺は、「女人高野」の別名を持つ。長い旅路の末、室生寺にたどり着いた女性たちは、心洗われる思いで、この御仏を仰ぎ見たことだろう。

【国宝】《十一面観音菩薩立像》平安時代・9〜10世紀奈良 室生寺蔵 撮影・三

 

 

世界を変える美しい本
インド・タラブックスの挑戦

〜8月18日
細見美術館
☎075・752・5555
※以降、福岡に巡回

民俗の伝統・文化に根差して
世界で愛されるハンドメイド本

インド南部のチェンナイにある出版社、タラブックスの本を紹介する展覧会。『夜の木』という美しい絵本で世界を驚かせたこの会社は、1994年の創業以来、ハンドメイド本やビジュアルブックを中心に世に送り出してきた。なかでも力を入れているのが、インドの各地域の民俗画家と組んでつくる、伝統・文化に根差した本である。『水のいきもの』も、インド東部ビハール州に伝わるミティラー画という民俗絵画が採用されている。手漉き紙にシルクスクリーンで手刷りされた、工芸作品のような絵本である。

『水の生きもの』Waterlife