県営住宅の子どもたちは状況がよく似ていた
ぽつぽつある民家以外にあるのは、手つかずの自然だけ。
一面に広がるのは山、川、田んぼ。
自然豊かと言えば聞こえはいいが、山にうち捨てられた錆だらけの車や、土手の向こうの林の先にうっすらと見える鳥居など、『TRICK』に出てくる限界集落のような不気味さがある。
そしてあらゆる噂が筒抜けで、すぐに村中を駆けめぐる。
加えて、この村を包む独特な排他的な雰囲気が、私は苦手だった。
私の家がある県営住宅の団地は、低所得者層が集まっていた。ちなみに県営住宅には所得制限があり、収入に応じて家賃も変動する。
隣の家の人は50代くらいの元ヤクザで、上半身裸で庭にいる姿を頻繁に見かけたが、背中から腕にかけてびっしり模様が入っている。
生まれて初めて目にする入れ墨は、異様な威圧感があった。
顔には火傷のような跡、腕は途中から皮膚の色が違った。
外で出会うと愛想良くあいさつしてくれる優しいおじさんだが、たまに聞こえてくる怒号は、普通の人が怒った時に出す声とは明らかに凄みが違った。
向かいはお子さんが養護学校に通っていて、その隣には老夫婦が住んでおり、たまに窓から顔を出してアイスをくれた。
坂をあがった上の団地には、シングルマザーの家庭が2世帯。どちらも3人兄弟で、私と同じ学年の子がいた。両家庭とも極貧で、学校から防寒着や長靴をもらっていた。 ぺちゃんこにつぶれ、全体が真っ白にはげたランドセルを使っており、学校ではとても浮いていた。
私の家庭を含めた県営住宅の子どもたち、は状況がとてもよく似ていた。
村には昔からこの地域に住む人しかいなかったが、私たちが住む県営住宅は村で唯一の賃貸物件で、転居してきた人ばかりなのだ。私の家族も、村の外から引っ越してきた。
地域の集まりで、県営住宅の住人には明らかに冷たい、蔑むような視線が向けられた。
幼心に、大人が発する露骨な空気を感じ取っていた。
同じ村にも、この県営住宅と他の家との間には、見えない線が引かれていた。