人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第19回は「異世界」の名場面について……

第18回「なぜ《買い物》で欲望を満たすさまは面白い? ~高殿円「上流階級 富久丸百貨店外商部III」に見る名場面」はこちら

小説はただただ書きたいものを書けばいい

小説はいいなと思う点のうちのひとつ。それは、舞台設定において、予算が関係ないところだ。

たとえば実写映画や実写ドラマを作るとなったら、それはそれは大変である。たとえば異世界を描くとすると、CGにしろ、セットを作るにしろ、モロに予算の影響を受ける。背景も、衣装も、フィクションの設定なのにどこか現実の制約――つまり「これを実現できるかどうか」という検討の影響――を受けることが多い。

しかし小説は、なんでも描くことができる。個人の想像力と、それを他人に想像させる筆力さえ、あれば。

言葉は予算の都合を考えなくて済む。ただただ、書きたいものを書けばいい。だから小説は面白いのだと思う時がある。

そういう意味で、「異世界」ほど、小説家の技量が試される舞台もないかもしれない。

今回紹介するのは、小説で描かれる異世界ファンタジーの舞台だ。