知らない人たちのやさしさの連携

家の近所の薬局に行ってみたが、どこも入口に「コロナ検査キットの在庫はありません」の貼り紙がしてあった。しかたがないのでバスに乗り、覚えている限り薬局があるバス停で降り、探して回った。「三千里」はさすがに大袈裟だが、検査キットを求めて歩き続けた。図書館と市役所にも行ったが、どこにもない。最後に病院の薬局に行ったのは、病院にないわけがないと思ったからだった。が、切らしているという。

「もうどこにもないんでしょうか。家族ががんで入院中なので、検査キットがないと面会に行けないんですけど」

こんなことを言われても薬剤師の女性だって困るだろうが、つい愚痴ってしまった。彼女は何かをさらさらとメモ紙に書き始める。

「ここに行けばまだあると思います」

メモを渡されて驚いた。それはわが家から歩いて5分のところにある地元のコミュニティセンターの住所だった。

灯台下暗しとはこのことか。早速コミュニティセンターに行ってみると、大晦日はいつもより早く業務を終了するようで、後始末に追われている若い女性が一人いた。

「ここに検査キットがあると聞いてきたのですが」

声をかけると、髪の毛の先にカラフルなビーズをつけたラスタヘアの女性が、

「あります。そこから持って行ってください」

と、壁際の棚を指さした。10箱ばかり検査キットが積み上げてある。感動しながら近づいていくと、

「早かったですね」

と女性が言った。

「え?」

「電話があったんです。あなたが来るかもと」

まさか病院の薬局がそんなサービスまでしているわけはないだろうと不思議に思っていると、彼女は言った。

「あれ、わたしの姉なんです。あなたにここの住所を渡した薬剤師」

そう言われてみれば髪型や服装は全然違うけど、顔立ちがよく似ている。

「……そうだったんですね。お姉さんによろしくお伝えください」

わたしは棚から検査キットを取ってバッグに入れた。女性はテーブルの上に散らばったティーカップを片付けていた。

「よいお年を」

そう言うと、彼女が微笑しながらこちらを見た。

「あなたも、心安らかな新年を」

知らない人たちのやさしさの連携が身に沁みた。A CUP OF KINDNESS.「蛍の光」の元歌の歌詞にそんな一節があったなと思いながらわたしは外に出た。