来る2023年、中公文庫は創刊50周年を迎えます。その記念プレ企画として、本連載では「50歳からのおすすめ本」を著名人の方に伺っていきます。「人生100年時代」において、50歳は折り返し地点。中公文庫も、次の50年へ――。50歳からの新たなスタートを支え、生き方のヒントをくれる一冊とは? 第10回は、俳優の小林聡美さんに伺います。

小林 聡美(こばやし・さとみ)

1965年東京都生まれ。映画、テレビ、舞台、エッセイの執筆など幅広く活躍。映画『かもめ食堂』『めがね』『マザーウォーター』『紙の月』などに出演。著書に『散歩』『ていだん』『わたしの、本のある日々』などがある。主演映画『ツユクサ』は2022年GWに公開予定。

今こそ読みたい本を

家のことも、仕事も一切しなくていい、といわれたら、家の本棚に並んでいる本を引き出して、ゆっくりゆっくり読書をしたいと思います。
残念ながらそんな身分ではないので、日々の雑事に追われつつ、その隙間で本を読むというありさまです。

仕事で本を読むこともありますが、そんなときは「早く読まねば」とどこか気がせいてしまいます。
「好きなだけ、ゆっくり本を読んでよし。感想文もなし」というのが最高です。
もともと本を読むのは遅くて、知らない言葉や気になることが出てくると、調べたくなる性格なので、それで余計時間がかかるというのもあるかもしれません。

手元に置く本は、そんなですから、読み終わるものより、これから読む予定のものの嵩のほうが増えていきます。そして、ある日気がつくのです。人生、読書にあてられる時間には限りがあるということを。

私の読書の速度ならば、読み終えることのできる本の数も微々たるもの……。
そう思うと、これまでいつか読もうと大事にしてきた本こそ、今、読む時なのだ!と、ビビビっと背筋に電気が走りました。