来る2023年、中公文庫は創刊50周年を迎えます。その記念企画として、本連載では〈中公文庫の顔〉ともいうべき作家が自身の著作について語ります。さらにイチ押しの中公文庫のおすすめも――。レジェンドが明かす創作秘話とは? 第2回は、コミカルなのに奥深い、川上弘美的ガールズトーク小説『これでよろしくて?』の登場です。

中公文庫には、自著を何冊か入れていただいているのだが、中でこれを挙げたのは、いつもとは違う書き方をした小説だからだ。ふだんは、一人で考え一人で書き一人で見返す、という作業ばかりをおこなっているが、この小説に限っては、「日々の生活の中で、悩みというほどではないが、なんとなくもやもやすること」を、担当編集者に集めてもらい、それを眺めながら書く、という方法をとったのだ。

そのころはまだ存在していなかったが、今はネット上でにぎわっている「発言小町」のトピックになるようなことを、担当編集者の周囲の方々に聞きまわってもらった、と言えばわかりやすいだろうか。そしてそのトピックを、小説の中におりこみ、登場人物たちにいろいろな意見を述べてもらうという、いわば「実りある井戸端会議」を、小説にしたわけである。

単行本にする時も、校閲担当者、単行本担当編集者、そして作者のわたしで、それが妥当な井戸端会議なのかどうか、あらためて朱筆でゲラの欄外に意見しあった。

いつもは一人で荒野をゆくような仕事が、この本の時だけは「みんなであれこれ地図を見ながら進む」という仕事となった。そしてまた、いつも自分だけが感じているのではないかとおそれていた「悩みというほどではないがもやもやすること」を、みんなが抱えていることを知り、たいへんに安堵した。今も、その時の担当編集者と会うと、すぐに井戸端会議を始めてしまい盛り上がる、そんなしあわせな本づくりだったのである。

『これでよろしくて?』
(2009年9月 中央公論新社/2012年10月 中公文庫)

●内容紹介
些細なことでもよくってよ。日々の「?」をまな板に載せ老若女女が語らえばーー女たちの不思議な集まりに参加することになった主婦の菜月は、奇天烈な会合に面くらう一方、日常をゆさぶる出来事に次々見舞われて……。幾多の難儀を乗り越えて、菜月は平穏を取り戻せるのか!? 夫婦、嫁姑、親子、同僚。人とのかかわりに、ふと戸惑いを覚えてしまう貴女に好適。コミカルなのに奥深い、川上弘美的ガールズトーク小説。