来る2023年、中公文庫は創刊50周年を迎えます。その記念プレ企画として、本連載では「50歳からのおすすめ本」を著名人の方に伺っていきます。「人生100年時代」において、50歳は折り返し地点。中公文庫も、次の50年へ――。50歳からの新たなスタートを支え、生き方のヒントをくれる一冊とは? 第15回は、作家の宇能鴻一郎さんに伺います。

宇能鴻一郎(うの・こういちろう)

1934年、北海道札幌市生まれ。東京大学文学部国文学科卒業後、同大学院博士課程中退。在学中に発表した短篇「光りの飢え」が芥川賞候補になり、翌62年、「鯨神」で第46回芥川賞受賞。70年代以降、官能小説で活躍し、作品の多くが映画化された。主な著書に『逸楽』『血の聖壇』『痺楽』『べろべろの、母ちゃんは……』『むちむちぷりん』『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化』ほか多数。嵯峨島昭名義で推理小説も執筆している。2021年、初期の短篇を収めた『姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集』が刊行され、注目を集めた。美味佳肴を求めて日本列島を旅したエッセイ『味な旅 舌の旅 新版』も好評発売中。

ワイングラスで場面を再現

このグラスをご覧ください。今日のために用意したのですよ。

(大ぶりのワイングラスに水を注ぐ。
 透明な石のついた指輪を投げ入れながら)

日差しにきらめいてきれいでしょう。

白い手から指が三本伸びてコップのなかに入り、すぐまた出てきた。
ダイヤモンドの指輪が輝いて、三本の指がつかんでいる四角い氷にきらりと反射する。

久しぶりに『青い麦』を読み返しましたら、この場面が素晴らしいと思いましてね。
それで用意したのです。
この指輪はジルコンの5カラットです。
本物のダイヤモンドではありませんよ。
(グラスの中に指を入れ、指輪をつまみ上げる)

でも、男の太い指ではだめだなあ。
やっぱり女性の細い指でないとね。