いつまでも劇団の謳い文句に〈炎龍斗率いる〉を冠していてはいけない。今回の骨折を奇貨として、若手に成長してもらわないと──。
「アクションの切れをもっと出してくれ。特にラストの側転三連発からのバク宙クロス、速さも高さも全然足りてないし、タイミングも揃ってなかったぞ」
 忍者A、B、Cの三人が空中でクロスするところが最大の見せ場なのだ。ここさえビシッと決まってくれれば、なんとか忍者ミュージカルとしての格好がつく。
「オレがチェックするから、さっそくやってみよう」
 稽古用のマットレスに移動しかけたとき、LINEに孝夫からのメッセージが着信した。会わないか、と誘われた。用件の見当はつく。どうせ芝居をいつまで続けるかの話になるのだろう。稽古を中座することに迷いはあったが、ここでしっかりと自分の考えを伝えておきたい。
 忍者たちにバク宙クロスを一度やらせて、気になった点を指摘したあと、「ちょっと出かけるから、続きは自分たちでやってくれ」と言って、その場を離れた。
 疲れてるんだから、無理せずに、確認だけでいいんだぞ──と言っておくつもりだったが、つい、忘れた。
 忍者たちはその後も稽古を重ね、バク宙の着地にしくじった忍者Aがふくらはぎを傷めてしまったのだ。残り二回の舞台には立てない。ケンゾーが尋ねる前に、看護師の資格を持つスタッフが両手でバツ印をつくった。
 最後まで立ち会っておくべきだった。そうすれば、着地のときのバランスが少しずつ崩れていることに気づいて、修正もできたし、「よし、あとは体を休めたほうがいい」と切り上げることもできたはずだった。
 だが、後悔している暇はない。次の舞台──午後二時の開演まで、あと四十分足らずだった。
 忍者Aの役を忍者Bに、忍者Bの役を忍者Cに、それぞれスライドさせた。足りなくなった忍者Cの役には「その他」のリーダー格を抜擢し、「その他」には大道具のスタッフを加えた。
 玉突きのキャスティング変更をしても、忍者Aの抜けた穴は、やはり大きい。新たな忍者Cは台詞や段取りを覚えるのが精一杯で、アクションを磨く余裕などなかった。ラストの側転三連発からのバク宙も、残り二人とのタイミングがまったく合わない。
 それでも、とにかく時間がない。迷ったあげく、構成や演出には手を付けないことにした。
 ひどい舞台になってしまうのは覚悟のうえ──。
 しかたないんだ、と自分を無理やり納得させた。
 どうせ公演ではなく営業だし、どうせ残り二回で終わりだし、どうせ誰も本気で観ていないんだし……。