病室の清掃に来てくれた高齢の男性

その数日後、連合いの容態が落ち着き、喋れるようになったとき、彼は病院から電話をかけてきてこんなことをわたしに言ったのだった。

「昨日、病室の清掃に来てくれたのが高齢の白髪の男性だったんだけど、死んだ兄貴にそっくりだった。こう、小太りの体形とか、前頭部の禿げ具合とか、のっそりした体の動かし方とか。『あなたによく似た人を知ってます』って言ったら、にっこり笑って部屋を出て行った」

それを息子に話すと、

「ええっ、鳥肌が立った。怖い。でも……、サンキュー」

と言って空を見上げながら胸で十字を切った。

コロナ感染の隔離期間を終えて病院に面会に行けるようになったとき、この清掃の男性について看護師さんや病棟の受付の人に聞いてみた。が、誰も知らなかった。清掃係やリネン係は派遣会社から来ているし、わたしが説明するような外見の男性は見たことがないと言う。

単なる偶然には違いないが、どうしてあのタイミングで義兄にそっくりの人が連合いの病室にやって来たのかわからない。
どう考えても理解できないことが世の中にはあるのだ。だがそれらは、必ずしも人間を不安にさせるものではないようである。