イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「『そんなものだ』ホラー」。人は「そんなものだ」と思っているうちに、最後にはその状況に慣れてしまう――(絵=平松麻)

不便さに対しての慣れ

戦争が始まって以来、日本から航空郵便が届かなくなった。いや、正確にいえば、封書は届くのだが、献本や資料などの書籍が英国に郵送できなくなってしまったらしい。コロナ禍が始まった頃にも同様の問題が勃発した。が、あのときは荷物が届かないということはなく、3ヵ月ぐらいかかって連載の掲載誌が届いたりした。つまり、いちおう到着するにはしていたのである。

不思議なことに、英国からは普段どおり航空便で日本に郵送できている。だが、日本の郵便局に行くと「英国には送れません」と言われるそうだ。ウクライナ情勢の影響で、輸送手段が確保できないからだという。船便なら大丈夫らしい。いったいいつの時代なんだよ、と思うが、「そんなものだ」と思って生活するしかない。

それにしても、パンデミックに戦争にと、昨今の世界はいろんなことが一斉に起こりすぎである。国際郵便が届かなくなるとか、海外旅行ができなくなるとか(例えば、これを書いている3月末の時点でも日本は外国籍の人が観光目的で入国することを禁じている)、そういうことが現実に起こるとは、ほんの数年前には思いもしなかった。100年前の世界じゃあるまいし、人も物も自由にスピーディーに国境を越えて動けるものだと信じ、疑いもしなかったのである。

それがまあ、短期間で世の中が一変した感があるが、この不便さにしても「そんなものだ」と思っているうちにだんだん慣れていくのだろう。