「昨日、柳沢さんと相談して決めたんです。きりもいいから取材は連休まで、っていうことで」
 柳沢広報部長も自分の席から「そういうことなんだ」と言った。「ミズちゃんはずっと休んでたし、わざわざ連絡するような話でもないしな」
 マッチは「びっくりさせてすみません」と、少しだけ決まり悪そうな顔になって、「でも──」と続けた。
「カウントダウンとかするより、サプライズのほうが、オトナのお別れって感じしませんか?」
 しないしない、と孝夫は苦笑して言った。
「少しは取材の役に立ったら、俺もうれしいよ」
「そんな、とんでもないです」
「そうか?」
「はい、もう、すごーく役に立ちました」
 オトナなら「少しは」よりも「役に立った」のほうを失礼だと思ってほしかった。
「でも、ほんと、水原さんにはいろんなことを教えてもらいました。ほぼほぼ一ヶ月、たくさん取材できて、いい……勉強ができました」
 ありがとうございましたっ、と頭を深々と下げる。
 だが、その前に孝夫は聞き逃さなかった。「勉強」の前に一瞬「ネタ」と言いかけていたのだ。最敬礼もそれをごまかすためのものだったようだ。


 あきれる。けれど、不思議と、失礼の数々を咎める気にはならない。まあ、そこが彼女らしいか、と許せる程度には、マッチとのコンビに慣れていた。悪くない相棒だったかもな、とも思う。
「じゃ、どーも、さよーならっ」
 マッチはあっけらかんと、子どもが遊び場からひきあげるような調子でオフィスを後にした。そういうところも、ほんとうに、まったくもって彼女らしいのだが……これ以上の感傷にひたっているわけにはいかない。
 柳沢の席に向かった。
「彼女となにかあったのか」
 単刀直入に訊いた。「怒ってるだろ、さっきから」
「……バレてたか」
「あたりまえだ」
 人懐っこい顔立ちと明るくてひょうきんな性格、そしてシブさとは無縁の甲高い声のおかげで、たいがいの人には「いつもゴキゲンな部長」として通っている柳沢だが、三十年以上の付き合いになる孝夫には、そんな柳沢がわずかに覗かせる不機嫌さが読み取れる。
「連休中に、なにか大きな失敗でもしたのか?」
「いや、そんなのじゃないんだけど……」
 迷い顔になった柳沢は、長く伸ばしたため息の尻尾に乗せるように、ぼそっと言った。