2021年10月から、吉田篤弘さんによるweb書き下ろしの掌編小説連載がスタートしました。

2023年に創刊50周年を迎える〈中公文庫〉発の連載企画です。物語は毎回読み切り。日常を離れ、心にあかりを灯すささやかな物語をお楽しみください

「著者プロフィール」

吉田篤弘 よしだ・あつひろ

1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を続けている。著作に『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『おるもすと』『天使も怪物も眠る夜』『月とコーヒー』『それでも世界は回っている』『屋根裏のチェリー』『ソラシド』など多数

第14話

「アンドリューの個人天気予報」

 夜の底でバンはこわれたテレビを拾いあつめているのでした。暗い空き地をさまよい、みんなが捨てたテレビを拾ってはスイッチをひねります。でも、どれもつきません。
 叶うならば、テレビを見たいのでした。いつのまにか、こんなにも世界は静まり返り、彼は空があまりに広くてこわいのです。テレビを見ていれば、きっと気が晴れるのに。

 

 荒涼とした、だだっぴろい工業地帯の終わりのところでした。そこに、ひとつきり古びた屋内プールがあり、バンの叔父は、ほとんど誰もやって来ない、そのプールを管理していました。
「絶望の叔父」とみんなから呼ばれ、誰もが自分の叔父のように慕っているのですが、何かにつけて、すぐに絶望するのです。
「ああ」
 絶望の叔父はため息をつきました。
「今日も空が鳴ってるよ」
 バンは夜の底でテレビを拾い、昼が終わりかけるこの時間は、プールに立ち寄って、叔父のため息に付き合います。
「空が鳴れば、俺の腹も一緒に鳴る」
 叔父は空腹を訴え、絶望しては耳を澄まして、
「ああ、空が鳴る」
 と、また嘆くのでした。
 実際のところ、空は鳴っているのです。雷鳴かな、とバンも耳を澄ますのですが、どういうものか、稲光はひとつも見えません。音だけが遠くに鳴り、雷が鳴るというより、空の全体が穏やかに鳴っているのです。
「空も嘆いているんだろう」
 もし、そうであるとしたら、叔父の言葉は、そのまま空の言葉であるのかもしれません。
「だが、少しはいいこともある」
 絶望の叔父が、その唇の端に五ミリほどの笑みを浮かべました。
「夕方になると子供たちが来る。もうじき来るはずだよ──ほら」