昔、アメリカの地下鉄に乗って「Woody ’s」というデパートを目指した。

最寄りの駅を降りたものの、さてどちらの出口を出れば目的地にたどり着けるのかわからない。そこで通りがかりの親切そうなご婦人に声をかけた。

「失礼します。『ウッディーズ』というデパートはどこから出ればいいのですか?」

婦人は目をしばたたかせ、「What?」と聞き返した。聞こえなかったのかな。私は少し声を張り、「『ウッディーズ』です」と何度か繰り返す。それでも通じない。アクセントや言い方を変えて「ウディーズ?」「ウーディーズ?」などと何度も試すうちに、ご婦人、ようやく理解したという顔で、

「オー、ゥウディーズね!」

どこが違うんだ? でも違うらしい。日本語の「ウ」の発音と英語の「w」の発音はまったく別物らしいのだ。

彼らにとって「w」はまず口元を、ディープキスをするかのごとくすぼめて尖らせて、それから「ウ」と発するような感覚と言えばいいのでしょうか。たとえて言うのなら、ア行とワ行の違いと似ている気がする。

現に日本語には「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」、「お」と「を」は別のものとして発音していた時代がある。日本にも昔々、「w」に近い発音が存在していたのかもしれない。

いずれにしてもアメリカで初めて知った「w」の発音だった。「w」の正しい発音なんて学校で習わなかったもんね。