倍賞千恵子さん(撮影:宅間國博)
〈6月15日発売の『婦人公論』7月号から記事を先出し!〉
80代の現在もドラマに映画にコンサートにと、幅広く活躍を続ける倍賞千恵子さん。最近、生や死について考えることが増えたという。2022年6月17日より公開される主演映画『PLAN75』で、「75歳以上の後期高齢者が自ら生死の選択権を与えられる」社会に向き合った経験から感じたこととは──。(構成=篠藤ゆり 撮影=宅間國博)

死に正面から向き合っている作品

この映画の撮影中は、命のあり方や生きること、死ぬことについて、毎日毎日考えていました。映画のタイトルにある「プラン75」とは、75歳以上の後期高齢者に自らの《最期》を選択する権利を与える制度のこと。架空の日本を舞台に、深刻化していくであろう高齢社会の解決策として、この制度が可決されるんです。

最初、脚本を読み始めたときは、「えっ!」と思いました。正直、ひどい制度だなと。「75歳以上になると、こういう死に方がありますよ」と、国が決めて、死ぬ手伝いをしてくれる。高齢者の人口が増えたからって、これじゃまるで老いたら不用品……冗談じゃない。しかも、なんとなくリアリティがあるところが恐ろしくて。

私が演じる角谷ミチさんという78歳の女性は、ホテルの客室清掃の仕事をしながら、一人暮らしをしています。自分で買い物して、食事も作り、つましくもきちんとした日常生活を送っている。ところがある日、高齢を理由に突然職場を解雇されてしまいます。さらに、支え合ってきた職場の友だちが急な病で亡くなったり、住んでいた団地から立ち退きを迫られたりしてしまうのです。新たな職や住まいを探そうにも、年齢を理由に断られ続け――。夫に先立たれ、子どももいないミチさんには、頼れる人がいません。そこでふっと、「プラン75」が気にかかり始めるんですね。

映画では、ミチさんのような高齢者だけでなく、高齢者に「プラン75」を勧める公務員の青年や、申請窓口のコールセンターに勤務する若い女性、それから家族を祖国に残して来日し、高齢者の最期に立ち会う仕事をするフィリピン人女性の生き方も描かれます。

脚本を読んでいる間は、いろいろなことを考えました。そして一番最後のシーンを読んで、ああ、このお仕事をやらせていただこうと思ったんです。どんなラストなのか、詳しいことは言えないんですけどね(笑)。でも、自分自身に問いかけてみて、死に正面から向き合っているこの作品の中で生きてみよう、と思いました。

そんなふうに思えたのは、ちょうど私自身が生と死について考えていた時期だったから。この歳になると病気にもなるし、身近な人との死別も増えてくるので、自然と考えるようになっていったんですね。