2021年10月から、吉田篤弘さんによるweb書き下ろしの掌編小説連載がスタートしました。

2023年に創刊50周年を迎える〈中公文庫〉発の連載企画です。物語は毎回読み切り。日常を離れ、心にあかりを灯すささやかな物語をお楽しみください

「著者プロフィール」

吉田篤弘 よしだ・あつひろ

1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を続けている。著作に『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『おるもすと』『天使も怪物も眠る夜』『月とコーヒー』『それでも世界は回っている』『屋根裏のチェリー』『ソラシド』など多数

第17話

「常夜灯が好きな天使の話」

 皆さん、ご存知でしょうか。空の上には天界というものがありまして、そんなところにも、やはり夕方がおとずれるのでした。
 そんな空の上の夕べの一幕です。
 小さな羽根を持った天使たちが、それまで見たことのない青いものを取り囲んでいました。その青いものは、薄ぼんやりとした光をその内側に隠し持っているようです。
「これは何だろう」と一人の天使がつぶやきました。
「なんだか大事なものらしいよ」と別の天使が答えます。
「大事なものって?」
「それはやはり──命じゃないかな」
 彼らはまだ見習いの天使でありましたから、分からないことがいくつもあるのです。
 そこへ──、
「いいかい?」
 大きな羽根の天使があらわれました。
「まずは光について学ぶのです。君たちはまだ小さな羽根の天使なのだから、地上の人間たちについて──彼らの営みを知る必要があります」
 大きな羽根の天使はやさしい心を持っていました。天界には、もっと大きな羽根を誇る天使もいるのですが、彼らに比べると、大きな羽根の天使の言葉は、どこかやさしいのです。
 なにしろ、もっと大きな羽根の天使たちは、光ではなく、「闇の力について学べ」と繰り返し言うのですから──。
「でも、それってどうなんだろう」
 生意気なことでは右に出る者はいない、いちばん末っ子の見習い天使が言いました。
「光がやさしいものであることは知っているけれど、それだけではないと思うんだ。光は闇の中に身をひそめているものを暴いてしまうからね」