難しい専門分野をわかりやすく伝えたい

竹内そんな西川先生のやりたいことの一つが、医療ジャーナリストとしての活動ですね。

西川医療分野の難しいことを子どもたちにも理解できるように、わかりやすく伝えたいというのは以前からの目標です。現代医療の進化は目覚ましくて、2006年に京都大学の山中伸弥教授らが世界ではじめてiPS細胞の作製に成功し、今では再生医療や、難病の治療薬の開発などにも応用されつつあります。だからこそ、未来を担う若い人や子どもたちに、もっと関心を持って医療の可能性に挑戦してもらいたいんです。そのためには、難しい専門分野をわかりやすく説明し、興味を持ってもらうための工夫が必要です。たとえば、NHKのEテレなどでじっくり取材して「iPSってなに?」という疑問にわかりやすく答えるような番組があればいいと思いますし、若い情熱のある医師にインタビューするような企画もやってみたいです。

竹内僕もサイエンスライターとして、難しい科学をやさしく伝えるということをモットーにしていて、西川先生と同じ目標を持っています。それを実現する手法はいろいろあると思いますが、一番わかりやすく伝えられるのは、テレビかもしれないですね。ただ、番組のプロデューサーなどにこちらのやりたいことを伝えても、たいてい却下されてしまいます。

西川それは同感ですね。こちらが熱心に提案すればするほど、ボツにされている気がします。(笑)

竹内テレビの制作に携わる方も、「面白い番組を企画して作る」という使命を持って働くクリエイターです。企画は番組作りで一番大事な部分であり、責任もある。とはいえ、こちらも持ち込まれた企画に乗っているだけでは、自分の目標を達成していくことは難しい。そこで戦法を変えて、一方的に情熱をぶつけるのではなく、周囲を上手に巻き込みながら、「みんなでこの企画を考えよう」という雰囲気を作るようにしているんです。

西川そういえば、取材する人まで私が決めて、自分の企画を熱く語ってしまったときは、周囲が引いていました。

竹内そんなときは、逆に質問するのはどうでしょう?

西川なるほど、こちらの言いたいことをおさえて「誰に取材したらいいかしら?」と聞くわけですね。いいアドバイスをいただきました。次回からは私も情熱的になりすぎない戦法にして、自分の企画にもっと共感してもらえるようにしたいと思います。

医師という仕事において大切なこととは

竹内ところで西川先生は、なぜ医師を目指そうと思われたんですか?

西川私の父が医者なので、家の方針で、子どものころから「医者になれ」と言われ続けていたからです。バレリーナになりたいとか、宝塚に入りたいとか、医者以外のことに興味を持つと、整形外科医の父から「ダンスは膝を痛めるからダメだ」などと言われ、ことごとく反対されました。母は特に厳しくて、「鉛筆より重いものは持つな」と言うほどでした。でも、小学校3年生のときに、私はあまり頭がよくないと気づいたんです。自分には、一を聞いて十を知る賢明さはなくて、一を聞いたら一しかわからないと。ただしそれは、かえって医者に向いているんです。

竹内それは意外ですが、どうしてなんですか?

西川医者は、まじめに勉強して医師国家試験に合格すれば、抜きん出た才能やほとばしる知性がなくても、きちんと仕事ができるからです。私の周囲を見渡してみても、成績が悪くて留年したりした人のほうが、ある意味人生経験も豊かで人間味のあるいい医者になっていますしね。

竹内医師の場合は患者さんとのコミュニケーションが大事ですが、エリートより挫折を経験した人のほうが、患者さんの気持ちを思いやることができるんですね。

西川そうなんです。以前は私も、「あなたに弱者の気持ちがわかるんですか?」と聞かれると、「私には想像力がありますから」などと豪語していました。でも、実際に自分が大きな病気をしてからは、以前よりも患者さんの気持ちに寄り添うことができるようになったと思います。