来る2023年、中公文庫は創刊50周年を迎えます。その記念プレ企画として、本連載では「50歳からのおすすめ本」を著名人の方に伺っていきます。「人生100年時代」において、50歳は折り返し地点。中公文庫も、次の50年へ――。50歳からの新たなスタートを支え、生き方のヒントをくれる一冊とは? 第25回は、脚本家・中園ミホさんに伺います。

中園ミホ(なかぞの・みほ)

脚本家。1959年東京都生まれ。占い師を経て、脚本家に。代表作に『やまとなでしこ』『ハケンの品格』『Doctor-X 外科医・大門未知子』、NHK連続テレビ小説『花子とアン』、NHK大河ドラマ『西郷どん』がある。近著に『相性で運命が変わる 福寿縁うらない』。脚本の最新作は10月7日より公開の映画『七人の秘書 THE MOVIE』、また、10月より放映される連続ドラマ『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)。

映画が私を救ってくれた

最初にこの本に出会ったのは大学生の時でした。映画を、その作品に出てくる印象的な台詞を入口に、イラストとともに紹介するエッセイです。チャップリンの無声映画から日本のヤクザもの、難解な作品から「007」まで幅広く扱っていて、めまいがするほど素敵なものばかり。何より和田誠さんの映画愛に溢れていて夢中になりました。

当時、映画を観ようと思うと、淀川長治さんや水野晴郎さんが解説するTVの名画劇場で放送されるのを待つか、雑誌『ぴあ』をチェックして運良くどこかで上映されているのを見つけるか。この本に登場する映画を観たいと思い、必死に機会を探して、深夜の3本立てなんかにもよく通いました。

名台詞というのは、その作品の本質を凝縮していると思うのです。そして名作の中には必ず名台詞がある。男性観、恋愛観、仕事観など、様々なものをこの本の名台詞から学びました。

思い返せば人生で一番苦しい時、私は映画に救われてきました。

10歳の時に父が、19歳の時に母が亡くなったのですが、19の時は精神的な負荷が大きかったのか、記憶がほとんどないのです。母の看病をしたことは憶えていますが、母がいなくなってから、私はどんなふうに呼吸をして、どうやって大学を卒業したのか。友人によると、お洒落してディスコで踊ってよく笑っていたというのですが、2年間くらい何も思い出せない時期があります。ところが当時観た映画のことは鮮明に憶えているんですね。

今思うと、現実を受け入れられなくて虚構の世界に逃げ込んでいたのかもしれません。映画の時間だけは意識があった。逆に言えば、虚構の世界が私の命綱だった。

まさにその頃に読んで、私を映画へと導いてくれたのが、この本です。

こういうものに救われて人は生きている。のちに脚本家という仕事についたのも、ここから始まっているように思います。