アルフォンス・ミュシャ《舞踏一連作〈四芸術〉より》1898年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵©Mucha Trust 2019

 

みんなのミュシャ
ミュシャからマンガへ──線の魔術

〜9月29日
Bunkamura ザ・ミュージアム
☎03・5777・8600(ハローダイヤル)
※以降、京都、札幌、名古屋、静岡、松本に巡回

現代アートやロック・バンドにも影響を与えた
アール・ヌーヴォーの旗手

19世紀末から20世紀初頭にかけて、パリの街角を華麗なポスターで彩ったアルフォンス・ミュシャ(1860-1939)。本展は、彼の美しいグラフィック・アートとともに、ミュシャに影響を受けた国内外のグラフィック・アーティストの作品を、1960年代のサイケデリック・アートから日本の少女マンガまで、幅広く紹介する展覧会だ。ミュシャは大女優サラ・ベルナールのポスターを描いたことをきっかけに、一夜にして「アール・ヌーヴォー」の旗手となった。

ミュシャと聞いてまず思い浮かぶのが、しなやかな曲線やエキゾチックな装飾、美しい花々に囲まれた、優美な女性のイメージである。たとえば、舞踏、絵画、詩、音楽という4つの芸術の形態から、「舞踏」を擬人化してあらわした《舞踏—連作〈四芸術〉より》。華麗な装飾の中で舞う女性の髪やドレスの、流れるような線の軌跡が心地よい。典型的な「ミュシャ様式」の作品だ。

山岸凉子《真夏の夜の夢》「アラベスク」(『花とゆめ』1975年4月9号付録ポスター用イラスト)1975年 カラーインク・紙 ©山岸凉子

20世紀の一時期、ミュシャは忘れ去られた存在だった。しかし60年代、ザ・ローリング・ストーンズほかのロック・バンドが、彼の作品をレコード・ジャケットのデザインなどに採用したことで再びスポットが当たる。一方、日本では明治時代に洋画家・藤島武二が与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の装幀にミュシャ様式を取り入れて以来、その遺伝子が受け継がれてきた。山岸凉子が「日本のデザイン黎明期にミュシャが与えた影響が色濃く出ていると思う」と言うように、戦後の少女マンガの美の規範となったのだ。その大衆的な広がりにおいて、ミュシャはやっぱり「みんなの」ミュシャというにふさわしい。

 

ドレス・コード?
──着る人たちのゲーム

8月9日〜10月14日
京都国立近代美術館
☎075・761・4111
※以降、熊本に巡回

制服やコスプレがもたらすものは

社会の中のさまざまな場や機会において、しかるべきとされる服装を定めた「ドレス・コード」。この暗黙の服装規定は、その服を着る者とそれを視る者との間に、駆け引きにも似たコミュニケーションを作りだす。本展は、18世紀の男女の宮廷服から、マンガやアニメなどに描かれたファッションまでを視野に入れながら、現代における新たなドレス・コードを見つめる展覧会だ。

服は、制服のようにその人の帰属意識を高めるだけでなく、コスプレのように別の人格を演じさせることもある。マリリン・モンローに扮し、映画の有名なポーズをとる現代美術家・森村泰昌(やすまさ)が着ている白いドレスは、モンローがセックス・シンボルになるための装置であった。また近年では、SNSの普及によって誰もが自らの装いを自由に発信できるように。ファッションが予想以上に強力な情報ツールであると、実感させられるだろう。

森村泰昌《セルフポートレイト 駒場のマリリン》1995/2008年 豊田市美術館蔵

 

 

伊庭靖子展
まなざしのあわい

〜10月9日
東京都美術館
ギャラリーA・B・C
☎03・3823・6921

「リアル」なだけではない
涼やかな静謐さ

自ら撮影した写真をもとに、クッションや陶器といった日常的モティーフを、その質感やそれがまとう光とともに描いてきた伊庭(いば)靖子(1967-)。彼女の作品は、「スーパーリアル」といった美術用語では語り切れない透明感、静謐さに満ちている。美術館での開催は10年ぶりとなる今回の個展では、東京都美術館で撮影した写真をもとにした作品や、初めて挑戦した映像作品なども紹介される。暑い夏の日に観るにはぴったりの、光や風を感じさせる、目にも涼やかな作品群が展開する。

伊庭靖子《Untitled 2018-02》油彩・カンヴァス、作家蔵(協力:MA2 Gallery)撮影:木奥惠三 Keizo Kioku