大きな何かに属したい人間の欲望の化身だったのでは

ニュース解説者やコメンテーターは、「あの列」は人々の女王に対する敬意が形になって表れたものだと言った。しかし実はそうではなく、「あの列」は、自分よりも大きな何かに属したい、その一部になりたいという人間の欲望の化身だったではないだろうか。

長いコロナ禍とロックダウンのせいだったのかもしれない。親族や友人のzoom葬儀のむなしさを思い出した人もいただろう。そこに自分がいること、実際に大勢の人たちと一緒に並んでいることが大事なんだと感じた人も少なくなかっただろう。

「何時間もよく並んだねって呆れる人もいたけど、どうせわたしたち、ふだんだってどうでもいいことに追われて時間を過ごしているんだもん。歴史の1ページに参加できる機会なんてそうあるものじゃないよね」

知人はさらに言い訳がましく言葉を続けたが、たぶん、「あの列」の真実はこのあたりにあるのではないか。毎日あくせく働いて、代わり映えのしない日常を過ごしている庶民が、数十年後も語られるであろう歴史の一部になれるレアなチャンスがやってきたのである。そりゃあ乗っちゃうかもね、傘と折り畳みイス持参でも、と思えてきた。そもそもポスト・コロナ時代の英国の人々はスーパーでも病院でも並ぶことには慣れているし。