ドバイは未来の世界の姿?

考えてみれば、この執念にも似たパワーは、夏のドバイのあちこちにみなぎっていた。ドバイには巨大なショッピング・モールがいくつも存在するのだが、その中には世界最大のスキー場が入っているところもある。屋内庭園も小さなものから大きなものまであって、まったく珍しいことではない。世界最大の屋内遊園地まであるというのだ。

暑い夏でも楽しむことをあきらめない姿勢は、街づくりにも貫かれていて、例えば、ドバイで一番大きい(ということは、やはり世界最大の)ショッピング・モールから駅までは、がんがんに冷房の効いた、歩いて10分程度の連絡通路が建設されている。とにかく暑いから屋外に出なくてすむように、すべてが屋内で完結するように設計されているのだ。

披露宴で会ったドバイ在住の建築家だという英国人と話していると、彼はこう言った。

「ドバイは未来の世界の姿だ。地球の温暖化が進めば、いずれ人間は屋外では活動できなくなるから、夏のドバイのように、屋内だけで暮らせる街のデザインが必要になる」

絵=平松麻

そう言われると、急にドバイが世界の先端を走っているように見えてくるのだったが、その一方で、体感温度が50度を超すことも珍しくない屋外の建設現場で働いている人々の姿も見た。ドバイで乗ったすべてのタクシーの運転手がパキスタンやバングラデシュからの出稼ぎ労働者で、彼らの言ったことが真実ならば、ものすごい長時間労働で、驚くほど低賃金だ。ドバイの労働者人口の9割以上が外国人だと彼らは言った。つまり、この近未来的で、シュールなほどリッチで、屋内スキー場完備のショッピング・モールをつくってしまう都市は、海外から来た貧しい出稼ぎ労働者たちに支えられているのだ。

となれば、未来に人間が屋内でしか暮らせなくなるとして、そのために必要な巨大な建造物や連絡通路を建設しているのは誰なのだろう? とても人間には耐えられなくなる気温の中で、それでも働いているのは誰だろう?

「ロボット」

ドバイ在住の建築家はそう言った。そして、椅子にかけてあったジャケットを手に取り、

「この会場、冷房が効きすぎて寒いよね」

と言いながら羽織った。その脇を、空になった皿やグラスをトレイにのせたフィリピン系のウエイトレスが歩いていく。ここは寒いけど、火を使っている厨房はきっと暑いんだろうなと思った。

ドバイで見たものは、格差どころか、極差だった。これが近未来の姿なら、人間はもはやそれを隠そうともしなくなるということだろう。