夫が可哀想でつらい

夜中に手洗いに起きると、夫がリビングでいびきをかいて居眠りをしていたので起こそうとしたが、少し考えてそのままにした。

この人がいま「もうすぐ妻が死ぬこと」から解放されるのは寝ているときだけだと思ったからだ。

(写真提供:Photo AC)

夫が可哀想でつらい。なんとかしてあげたいけれど何もできない。

※本稿は関係者の許諾を得て『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』(著:山本文緒/新潮社)の一部を再編集したものです。


『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』(著:山本文緒/新潮社)

お別れの言葉は、言っても言っても言い足りない――。急逝した作家の闘病記。
これを書くことをお別れの挨拶とさせて下さい――。思いがけない大波にさらわれ、夫とふたりだけで無人島に流されてしまったかのように、ある日突然にがんと診断され、コロナ禍の自宅でふたりきりで過ごす闘病生活が始まった。58歳で余命宣告を受け、それでも書くことを手放さなかった作家が、最期まで綴っていた日記。