来る2023年、中公文庫は創刊50周年を迎えます。その記念プレ企画として、本連載では「50歳からのおすすめ本」を著名人の方に伺っていきます。「人生100年時代」において、50歳は折り返し地点。中公文庫も、次の50年へ――。50歳からの新たなスタートを支え、生き方のヒントをくれる一冊とは? 第27回は、エッセイスト・酒井順子さんに伺います。

酒井順子(さかい・じゅんこ)

1966年東京都生まれ。高校時代より雑誌にエッセイを寄稿。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念する。 2003年『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。『処女の道程』『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』『ガラスの50代』『うまれることば、しぬことば』『女人京都』など著書多数。

古典は苦手だったけど

学生時代は古文が苦手すぎて、なぜこのようなものを学ばなくてはならないのか、と怒りすら覚えていた私が、橋本治『桃尻語訳 枕草子 上・中・下』を読んでみたのは、二十代のある日のことでした。

その昔、「桃尻娘」シリーズを愛読していたからこそ、「桃尻語訳」という部分に興味を覚えた私。

と同時に、エッセイを書く仕事をすでにしていたことから、「エッセイストの祖の作品ぐらい、読んでおかなくてはいけないのではないか」とも思ったのです。

『枕草子』を、現代(1980年代当時)の女の子の話し言葉で訳したこの本。
最初の一文、

春って曙よ!

は、世に衝撃を与えたものでした。

教科書的な訳では、「春は夜がほのぼのと明けようとする頃(が良い)」というように、様々な説明がつきがちでした。

対して「春って曙よ!」からは、作者である清少納言が伝えようとしていた魂のようなものが、滲み出ていたのです。