うちの近所にもリズが住んでいた

ところで、エリザベスといえば、うちの近所にも亡くなったエリザベスがいる。わが家の裏にある(裏庭のフェンス一枚でつながっている)お宅の猫が、やっぱりリズという名前だった。そのお宅は高齢のおじいさんの一人暮らしで、エリザベス・テイラーの大ファンだったことから飼い猫をリズと呼ぶことにしたのだった。

これがやっぱり長寿の猫で、うちの息子が生まれる何年も前からいたから、ことによると20歳ぐらいまで生きたかもしれない。若い頃はすらっとした白猫で、長い首を優雅に傾けながら裏庭のフェンスの上に座っている姿など、大女優の名を持つ猫にふさわしいエレガンスを感じさせた。年齢を重ねてからはだんだん体が重そうになり、すいっとフェンスに飛び上がれず、ぼてっと落ちるようになった。だが、それでもしぶとくフェンスによじ登り、ふくよかになった顔の中心から二つの目をぎらっと光らせ周囲を見渡している様子には、これまた往年の大物女優じみた迫力と凄みがあった。

絵=平松麻

そのリズが、わたしが旅行に行っていた間に亡くなっていた。おばあさんが亡くなって以来、ずっとリズと二人で暮らしていたおじいさんの落胆は大きく、家に引きこもって庭にさえ出てこなくなってしまった。

だが、宮殿に住んでいたもう一人のリズが亡くなった数日後、おじいさんが家から出てきた。そして、この元公営住宅地の多くの住人がそうしているように、家の前庭に不要になったものを並べ始めたのだ。