日本は夕方の5時、英国は午前8時

ふつうオンライン飲み会というのは、スクリーンの両側で一緒に飲んでいるものだろう。これは不均衡、いや、不平等である。しかも、あっちは複数でわいわい飲み食いしているのに、こっちは仕事部屋で一人ぼっちだ。さらにいえば、日本は夕方の5時で、英国は午前8時。濃いコーヒーをいれて仕事を始めたばかりのときに、ちゃんりら、りんらり~、ちゃんりら、りんらり~とスカイプがかかってきても、朝っぱらからほろ酔いの人たちの会話についていくのは容易ではない。

「おいちゃんは四十の頃から高血圧。そやけん、毎日、朝いちで血圧の薬ば飲みよう。起きたらぱっと薬を水で流しいれて、そしたら安心していくらでも飲める。がはははは」

「がはははやなかろうも、そりゃ本末転倒っていうか、めっちゃ不健康やない?」

「なんでや。おいちゃんは薬の力で、もう何十年も酒飲みながら生きとるぞ。だいたい、酒が飲めんごたあなら……」

叔父の言うことの先が読めて、わたしは叔父と同じ言葉をハモる。

「死んだほうがまし」

こういう人たちに囲まれて育ったからわたしは大酒飲みになってしまったのだ。ぐびぐび飲む叔父のペースに合わせて、ちゃぶ台のこちら側にいるので見えない親父も飲んでいるはずだ。

叔父は陽気にいろんな話をした。相変わらずの酩酊やらかし談も、むかしはもっと武勇伝っぽかったが、寄る年波には勝てないらしくめっぽうしょぼい話になっている。自転車で料理屋にビールのピッチャーを戻しに行ったら道でよろけて、「このピッチャーだけは割られん」と、自由の女神の松明の如くにピッチャーを掲げたまま商店街の店先に突っ込んでいったエピソードを、叔父は大げさに振り付きで話して聞かせる。