笑うのが一番
実家のほろ酔いの人々はゲラゲラと笑う。ノリに遅れてはいけないとわたしも笑う。3人が笑っているのだから、わたしも笑わなければいけない。
「どげんときも笑うのが一番だいじですばい」
「そうそう。笑わないかん。笑わな力が出らん」
「姉さんも、今日、病室でちょっと笑いよったですな」
「うん、ちょっと笑いようごたった、気のせいかもしらんけど」
叔父と親父が頷き合っているところでタクシーが来たらしい。実家の玄関のベルの音がして、
「はーい、いま行きます」
と妹が答えた。叔父がちゃぶ台に手をついて立ち上がり、
「ほしたらなー」
と唐突にスクリーンから消えた。「早かったですな」とか言いながら玄関に出ていく親父の後ろ姿も見える。
しばし沈黙が続き、誰かが玄関をガラガラ開けて帰ってくる音が聞こえた。
「まだスカイプにおるよー」
とわたしが言うと、妹の顔が画面に現れる。
「おいちゃん、そうとう飲んだ?」
「いや、そうでもないよ。量はそんなに飲んでないと思う」
やはり酔ったふりだったのだ。
「おいちゃんが明るくしとうけん、一番だいじな話ができんやった。お墓の話とか」
妹はさきほどとは違って真面目な顔になっている。しばらくすると、父も戻ってきてスクリーンに顔を出した。
「姉一人、弟一人の二人だけの姉弟やけんな……、いまのうちに会うてもろうてよかった」
ほろ酔いに見えた人たちは誰一人として酔っていなかったようだ。
駅でタクシーを降り、電車に乗り込んで一人で座席に座るときの叔父のことを思った。
母が来週、病院からホスピスに送られる。