英国が真価を発揮するとき

これまで、英国のクリスマスといえば、一年に一度の「大消費祭」だった。商いに携わる人々にとっては、ここが儲けどきである。だから、消費欲を失わせるような宣伝はできないし、消費より大切なことがある、などという倫理的メッセージを発するコマーシャルなどご法度だったはずだ。

だが、英国のクリスマスにはチャリティーの歴史もある。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』の精神である。この生活苦の時代に、英国のクリスマスがディケンズに立ち返るのはごく自然なことに思える。

そしてこういうときにこそ、この国は真価を発揮する気がするのだ。

ホームレス・シェルターには続々とミンスパイ(英国のクリスマスのお菓子)の寄付が届いているそうだ。クリスマス当日は激安の七面鳥ディナーを提供すると張り切っている地元のパブもある。

むかし、「日本には慈善を偽善と言う人たちもいた」と保育の師匠だった英国人女性に言ったことがある。彼女はこう答えた。

「それは施す側の論理です。一人でもあなたの行為を受けて助かる人がいれば、それは善です」

この考え方が今年のクリスマスには街のあちこちで息づいているのを感じる。そして、粗末な厩で生まれた人の誕生日を祝うには、今年のムードのほうがふさわしい。