施設の食事が気に入った母は、一切外食をしなくなった(写真提供:photo AC)
人生後半を見据えたら、今後不要なもの、大切なものに気づくことができた。人間関係や心配事を手放した先にあったものとは。マユミさん(69歳・カフェ経営)は、高齢の母(96歳)が施設に入ってくれたことで、さまざまな悩みから解放されたそうで――。

親の衰えとお金の心配がなくなった

長寿時代のいま、「長生きリスク」という言葉があるように、医療費や生活費などお金の話は人生最後までつきまとう。「高齢の母(96歳)の衰えと、無駄遣いが心配でした」と言うのは、マユミさん(69歳・カフェ経営)だ。

6年前まで、東京の郊外の自宅から1キロほど離れた実家に一人で暮らす母親を見守っていたマユミさん。母親は独居が長く、身の回りのことは一通りこなせていた。

「80代の終わり頃から、毎日夜中に電話をかけてくるようになったんです。『庭に人の気配がする』とか『空き巣が狙っている』とか。電話を取り損ねると警備会社や警察に連絡してしまい、大騒ぎになることも。こちらは安心して眠ることもできなくなりました」

母親の散財も、マユミさんの心配の種の1つだった。およそ25年前、70歳で他界した父親は、大企業勤めで投資に余念がなく、伴侶が働かずに100歳まで生きても十分な財産を残した。けれど気ままな一人身となった母親は、お金を湯水のように使い続ける。

「タクシーを呼んで街まで繰り出しては、フルコースのランチをたいらげるのが日課。洋服や雑貨も『ケチだと思われるのが嫌』と、店員に勧められるがまま購入していました。冬季は床暖房をつけっぱなしだから、電気代は月額5万円に上っていたんです。

買いたいものを買い、食べたいものを食べる生活。何度注意しても『私の自由』の一点張りなので仕方なく放っておいたのですが、このままでは父の遺産は近い将来底をついてしまう。相続するお金が減ったら、私と夫の老後資金まで揺るがされるのでは、という不安が常にあったんです」