宮原義昭さんご夫妻(撮影◎延 秀隆 以下すべて)
福岡県八女市を原産とする八女茶が、2023年に発祥600年を迎える。その生産者たちがトップを目指すのが、年に一度行われるお茶生産者の祭典、全国茶品評会。 煎茶、碾茶(抹茶)、かぶせ茶、玉露の四部門に分かれ、各部門で日本一を決める賞レースが行われる。 一生に一度取れるかどうかわからない「一等一席(農林水産大臣賞)」を、特に難易度の高い玉露部門にて受賞した福岡・八女の4人の生産者にお話を聞いた。
(構成◎安井邦仁 撮影◎延 秀隆)

自然が相手の繊細な仕事

──まず皆様は玉露の中でも特に難しいと言われる「八女伝統本玉露」をつくってらっしゃるんですよね?

宮原 義昭:そうですね。八女伝統本玉露はそもそも日射量の少ない山間の畑で、あえて茶樹の枝を剪定しない「自然仕立て」(かまぼこ型ではない)の茶園で栽培されます。新芽が1葉出たら、稲藁で編んだ簀巻きを使って畑全体を遮光します。そうすることで芽がゆっくりと育つのですが、状態を見ながら16日以上被覆しなければなりません。

茶の新芽が伸びていくに従って遮光率を高めていくために、労力がかかりますが簀巻の上に振り藁を何度も撒いていきます。最終的に98%の遮光率にし、旨味を最大に引き出します。

遮光された茶畑

4~5枚葉が開いた頃が摘み取りのタイミングです。手摘みで、一つの芯に対して上部の2枚しか摘まず、茎の裏を指の腹で、静かに折れるまでゆっくりと曲げていき、外れたら丁寧に竹籠に入れます。今ではこのような手順は八女地方でしか行われていません。

──今の領域まで辿り着くために、毎年ご苦労をなさっていると思うのですが、一番難しいな、と思う点はどんな部分なんでしょうか?気候の変化なども感じられますか? 

宮原:長くやればやるほど感じることは、自然相手ということでしょうか。
最終的には気候次第、自分では毎年同じような作業をしてる、という感覚はないんです。自然があってお茶があると。気候の肌感としては、以前と比べ10日くらいずれが出てきているような気がしますね。お茶の生育具合も含めて。

──作業されるなかで、身体的には一番どこが疲れる、というのはありますか?

久間正大:宮原さんがやってらっしゃる限り、僕たちはきついとは言えないですよね。

宮原:あと2年で80歳ですからね(笑)。八女伝統本玉露の現場ではおそらく自分が一番年上かと思います。

──宮原さんは自然が相手、という部分が難しいとおっしゃってましたが、皆さんはいかがですか?

山口孝臣:続けていくコツは、開き直りでしょうね(笑)。結局なるようにしかならないので、私は前の年と比べることを辞めました。一方で、年に1回しか取れないわけですから、人生の中であと何回作れるかな?と。だから多少の苦労は仕方ないと思うんです。

城昌史:以前寒さで畑の半分がだめになったことがありました...。もうそんな時はやる気もなくなりますよね。でも手摘みの為に30人ほど雇っているので、摘まないわけにはいかない。それに、日本一も取りたいけど、自分の求める味を創りたいですよね。以前日本一を取った時は理想に近づいたかな、と思ったんですけど、まだまだ先があると思っています。

城昌史さん

久間:常に一発勝負なんですよね。次とれるのは1年後ですし。時間を巻き戻すこともできないし。

城:日本一目指してみんな頑張っていますからね。

──お天気は毎日気にされてますよね。

山口:春先は特にでしょうね、みんな。 

城:摘菜日あたりなんかは特に。

山口:天気予報をチェックするのは、1日何回っていう数じゃないですよね。1時間とか2時間おきぐらいに見ます。コロコロ変わりますから。

久間:天気を見る理由として、機械で摘むなら私達が作業を中断すればいいんです。でも玉露になると全て手摘みなので、確保している摘み手さんに中止を伝えなきゃいけない。それが機械で摘む煎茶との違いですよね。摘み手の方も同じように変動があるというのはおわかりにはなっているので、理解はしてもらってはいます。

山口:雨が降ると乾くまで時間が掛かってしまうんです。だから中2日くらいは空けないといけない。濡れたら品質にも影響しますので、出来るだけ天気が良い時に摘みたい。

宮原:乾かすために風なんか当てられませんしね。人数が多く必要なところは大変ですよね。うちは25人程度で2日間くらいで終わらせれるので。

城:うちは30~40人くらいはいないと厳しいので、頭が痛いです。