イラスト:飯田淳

ベストセラー部隊の一人となった私は、会社員としての
株価が急上昇。忙しくも満ち足りた日々を送っていた。
しかし、ある日を境に、右肩上がりだったグラフはストップする。
きっかけは大きな事故だった

第21回 幸せバブルとその崩壊

私は幸せの絶頂にいた。

21世紀を目前にして、担当作が次々ベストセラーになり、そうするとヒト・モノ・おカネ(シゴトともいう)――が私のところへ集まってきた。

「あの頃ミルコさんは、経済を回していたよね(笑)」

と、古い友人が冷やかす。

そんな大げさな。

にしても、会社をやめて、大病をして、東京を離れ、将来ロシアの村に暮らしたいなぁ、なんて言っているいまの私に再会したら、当時の知り合いはみな意外に思うかもしれない。

でも、もうちっとも経済を回していないこっち(現在の日々)のほうが断然いい。なぜなら自分でやったことはぜんぶ自分に還ってくると実感できるからである。

あの頃、経済をちょっとは回していたかもしれないが、目も回していた。忙しくて、なんだかよくわからなかったのである。

〈本を売る〉ためにやらなければならないことが、山ほどあった。

〈本を作る〉だけでもたいへんなのに、本を作っている途中から、本のプロモーションは始動する。

本の中身とカバー・デザイン案が上がると、それを持って本の宣伝に協力してくれそうなメディアや人物を訪ね歩いた。テレビやラジオのプロデューサー・ディレクター、雑誌の編集者、新聞記者……といった人びとに会い、本を取り上げてくれるよう、お願いする。こちらのお願いを受け入れてもらうためには、まず相手のことを知らねばならないので、番組を見たり、雑誌を買って読んだり、記者の方の文章も事前に入手して読んでおく。その上で会いに行く、もしくは手紙を書く。その手紙と一緒に見本を送る……をしつこく繰り返した。

本が出来上がると、全国の書店を著者と一緒にまわったりもした。サイン会や講演会などのイベントを仕掛けるのも、編集者の仕事だった。

著者をのせるステージづくりに、毎回たいへんな手間がかかった。作家先生第一主義。前回書いたように、先輩からも「とにかく作家を最優先すること」との指導を受けている。作家先生に機嫌よくやってもらうため、書店や会場の担当者と事前に入念な打ち合わせをし、イベントに来る読者のみなさんにも、楽しく心地よくその時間を過ごしていただけるよう、ベストを尽くす。サインをする著者が使いやすいペンやお手拭き、飲み物などを用意するのはもちろん、著者の周囲に細やかに気を配り、椅子の配置や机の高さ、マイクの音量、お客さんと著者の距離……などなど手ぬかりのないよう、すみずみまで調整、チェックをした。担当編集者は自分へ作品を託してくれた著者に、恥をかかせるわけにはいかないのである。