イラスト:飯田淳

ボスの判断だけを信じて働くことは、もはや
私自身の絶対的なアイデンティティーとなっていた。
しかし会社が株式上場することで、
その前提は大きく崩れていく

第22回 株式上場

ボスはなんでも速かった。

それについては前回もふれたが、ここでスポットを当てるのは「決断」の速さである。

ボスの「やる」と「やめる」はピカイチだった。

何か相談すると、Yes/Noを即答した。

ボスがハッキリしているおかげで、社員は仕事に集中できた。

GOが出れば、やるのみ。

反対に、やらないとなれば、あきらめるしかない。

2000年代に入った世界――こと中国やインドで、いよいよめざましい速度でITビジネスが発展する。ドローンの民間利用が増えたあたりからだろうか、「日本はなんでも遅い」と、企業の決断の遅さが指摘されるようになった。企画書だの稟議書だの、が何人ものハンコを押されるのを待って、どっかで書類が止まって、「おいおい、いったい誰が責任を取るんだ?」なんて問題を押し付け合っているうちに、日本は世界からどんどんおいてけぼりを食うぞ~。たぶんいまでもそう言われているのに、なかなか改善されない。

けれど私のいた会社は、ちがった。

ボスが「わかった」をひとこと言えば、ぜんぶまとまる。そのスピードには特筆すべきものがあった。自分が中にいたときには気にも留めていなかったけれど。

他社の編集者が企画書を書いている間に、会議をしている間に、人に会い、本を作っていたのがボス社だった。私だって何度、企画書ナシで本を作ったことか。それができたのは、トップの決断があってこそ。当時のボスの、「やる」と「やめる」は、ほれぼれするほど速く、その決断は信頼できた。

「やる」と言っておきながら、「やめる」こともあった。

そんな殺生なぁ~、と思って文句をこぼしそうになると、ある男性作家にこう言われた。

「〈やめる〉を言えるから、あの人はすごいんだよ」

どんなに仕事が先へ進んでいたとしても、そのまま進むより傷が浅く済む、ということだってあると。それもまた、決断。決断のポイントがどこにあったのか? は企業秘密。というか、あれは才覚としか言いようがないだろう、誰にも真似できないものだ。ボスは鼻が利く。

ボスのスピードに煽られて、社員の動きも速くなった。やっぱりボスが怒ると怖いので、みんなすぐやる。会社の規模が小さかったことも、ある。社員みな仲がよく、部を越えて話し合い、社長に敗けないスピードで動いていた。会社の急成長にはいろんな理由があったろうが、あの速度は重要であったはず。

「やる」と「やめる」は同じくらい大事だということを、いまならわかる。

いずれにせよ、なんでも決めるのはボスだった。

ここで問題です。

Q.会社は誰のものでしょう?
三択でお願いします。
(1)私 (2)みんな(全社員) (3)ボス

はい、どれでしょう?

「えーっと……、だからその、なんでも決めるのはボスで。それは私にとって当然のことで。てことは(3)かなぁ?」