――あの大きな会社で、女性でありながら管理職にまで出世なさったのにね。

「やっぱり意思を持った女がダメなのでしょうか? 自分の心根がすこやかじゃなくなって、別のことにエネルギーを吸い取られていくのです。

当然いろんなピンチは、それまでにもありました。たとえば結婚して子どもをもったとき。従来の仕事スタイルは崩したくない、と思っても100は働けない、でも給料泥棒になっちゃいけない、現場にいるかぎりは成果を出していかないと……復帰してもあるレベルにはいたい、と欲張って。仕事に没頭するあまり、子どもの風邪の初期症状を見逃して重症化させてしまい、生死にかかわる事態になったこともありました。それでも私は仕事をやめないできたのです。それがこの件だけは、もう我慢し続けることができなくなった――。」

――居場所を替われて、ほんとうによかったですね。きっぱりとchangeしてくださいね。でないと、前の自分ってどこまでもついてくるんですよ。

「まったくおっしゃるとおりです」

――100パーはむりかもしれないけど、できるだけ。〈前の用〉は済んだのですよ。用が済んだら次の用。どうぞ〈次の用〉へ向かって、いまの、異動先の新しい事業に、おもいっきり専念してください。そしたらきっとまた、ぜったい楽しくなりますよ。

「……そうですね、このまま大手企業の社員として守られていることとか、ありがたみはある一方で、もっとなんかやれる人生とか、もっとちがう生き方とか、もう一回チャンスがあるとしたらいまなんじゃないか? とか、50歳になるところで考えさせられている。考えてしまう。役職定年まであと10年、この先どうするか? 自分はクリエイターとしてなにをやるのか、なにをやらないのか、自分のなかに湧き上がるものはなんなのか、なにが好きか――つきつめて考えたら、いろんなモヤモヤのなかでなにかをさぐるのだけはちがう、と」

――次の時代が、始まりますね。

すると、再びM氏が口をひらいた。

「二人はやっぱりプロデューサー。人の顔色を見すぎちゃうとダメなんだね、旗振る人は」

「ぶっ壊す」にともなう痛みは、いつか忘れる。
つづく