「一所懸命」という言葉がうかんだ。「一生懸命」もよく使うけれど、「彼女」たちがやってきたことは、「一所懸命」だ、と思う。「一所懸命」は、〈ひとつところ〉でがんばること。

私はメグさんのように定年まで勤めることは、できなかった。生涯、出版界を生き抜くのだと若い頃は思っていたけれど、そうはならなかった。43歳で、〈ひとつところ〉から離れる日がやってきた。

2009年3月末日――会社を離れる最後の日、会社の人たちが、私の愛する街・六本木でお別れ会を開いてくれた。

青い屋根に、白い文字。前はあったがいまはない、六本木交差点の目印のひとつだったホテルアイビス。その最上階のイタリアンレストラン・サバティーニで、パーティは盛大に行われた。バブルな編集者人生を生きた私にふさわしい? 贅沢な空間での酒宴に、会社のほぼ全員が出席。一人ひとり、あたたかい〈贈る言葉〉を述べてくれた。

「ところでミルコ(さん)はなんで会社をやめるんだ?」のギモンを持ち続けていた社員は、まだいたかもしれない。それでもI’m OFF宣言からおよそひと月半、お別れ会の頃には「まぁ何かしら一人でやりたいことがあるのだろう」という前向きムードに変わっていた。

本人としても気持ちを切り替えてサックス演奏を披露しちゃったりして、みんなにカッコイイところを見てもらった。とてもじゃないが突然の降格? リストラ? にともなうサブプライムショックに遭った人には見えなかっただろうと思う。退社の真相は誰も知らなかったのだから、まあ当然と言えば当然だ。

贈る言葉コーナーで、後輩の一人が言った。

「ミルコさんが本を出すときには、私に編集をさせてください」

え? そうなの? 私はこれから何かを書く?

後輩編集者の予言が、私の未来を照らしてくれた。

 ――そうだ、今日で終わりではない。
 会社を失ったらお先真っ暗なんて誰が決めた?
 前を向けばそこには誰も歩いていない私の道がある――。

新たな意志の芽生えを、自分の胸に感じた。いまにして思えばこの時点で私はもう、〈次の用〉のスタートを切っていたことになる。