MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。節電の要請が続く中、一方で「高齢者はトイレや脱衣所を暖めておくよう心がけましょう」との相反する声も聞こえ、電気を使わず身体を温める方法は無いかと考え始めた阿川さんは――。
※本記事は『婦人公論』2023年4月号に掲載されたものです

寒い日が続いている。節電の要請も続いている。と思ったら、「高齢者は部屋の温度が低いとヒートショックを起こす危険性が高い。トイレや脱衣所は特に暖めておくよう心がけましょう」とメディアが言い出した。

どっちなんだい?

暖房をガンガンつけて部屋を暖めるべきなのか。それとも暖房はなるべくつけないようにして、電力使用を最低限に抑えるべきか。

世の中はいつも同時に正反対のことを声高に唱える。経済を成長させなければならないと叫びつつ、地球に優しい質素な生活をしろと言う。高血圧や肥満の人に対して「料理は無理に食べないで残すことが大事」と指南していたと思ったら、最近はもっぱら食品ロスの問題を取り上げる。

どっちなんだい?

怒ってもしかたがないので、寒い問題に戻す。部屋を暖めろと言われても、やはり電気料金が気にかかる。なるべくエアコンをつけず、身体を温める方法はないものか。厚手の靴下をはき、毛糸の帽子を頭に乗せ、毛布を腰巻きのように巻き、台所で料理をする際はガス台に手を当てて暖を取る日々である。