ある仕事で私を気に入ってくれた米国の有名アーティストと、ライブイベントで再会した。私を見かけるとその人は満面の笑みで駆け寄り、一気にまくしたてるように何かを喋ってきたのだが、私は中身をちっとも理解できなかった。呆然とする私に、ものすごくガッカリした様子で、プイと行ってしまった。

Yさんになるかもしれなかった私の野望はそこで砕け散ったが、それでも病み上がりながら私は原稿書きに励んだ。体力はまるでなく、いま思えば精神も不安定であったが、声をかけてくださる方がいて救われた。

原稿の注文はやはり音楽にまつわるものが多く、アルバムのライナーノーツやライブレポートなどで、そのひとつひとつを、全身のエネルギーをふりしぼるようにして、書いた。

そんなある日のことである。元同僚から電話がきたのは。

「ミルコさん、会社の株ってまだ持っていますか?」

前号で書いたように、会社の株は売ってしまっていたが、「何者かに会社の株が買い占められている」という話をきいてしまったら、ひとごととは思えなかった。会社が誰かに乗っ取られるかもしれないということだ。

ボスを助けねば! という勝手な使命感に一瞬かられる。

「親分、おいらに何か手伝えることはありますか?」

と思わずボスに電話してしまいそうだった。もしも私が大金持ちなら会社の株を取り戻し、「ハイ、ボス」と差し出すことができるのに。大金持ちでなくて本当に残念である。

……あれ? バカバカ、私ったら!

なんで会社をやめたのたか、もう忘れているなんて情けない。

ボスの役に立ちたい。

ついそう思ってしまう自分がそこにいて、それを観察している自分もいた。

その2人(私同士)が相談した結果、こんなことではダメなんだということになった。

もうやめたのだから、前とはちがう。ここはいっそ心を鬼にして、本気で過去と決別せねば。でなければ、先へは進めない――。

しかしながらそう警戒するまでもなく、ある時期しぜんと距離ができた。会社は無事だったらしく、元同僚からもその後は連絡がなかった。

会社が上場そのものをやめたこと――を私が知ったのは、それから少し経ってからのことである。

〈上場廃止〉と聞いて、私は脱力した。

「あれはいったいなんだったのかなぁ……」

私の大好きだった、おもしろ制作集団であるところの〈法人〉が、デビュー後たちまち人気者になって、いろんな人が寄って来て、大金持ちになって、別人になってしまった。