2011年11月、ボス社は株式公開市場から退場した。

なんだか株に翻弄されちゃったよなぁ、とため息をついた。にしても、当時50代半ば~後半だったろうか、職業人としておそらく最も脂の乗った時期に経営者であったボスの輝きを思い出すと、思いきりビジネスで手を広げずにいられなかったのもムリはない、とも思える。

……もしも〈株式上場〉がなかったら、私はいまも会社に残れていたかしら……? なんてね。ないない、もう済んだことだ。とにかく幾人かの社員の人生をも変えた株の熱狂は、わずか数年で終わりを迎えたのである。

久しぶりにそのことを思い出したのは、「パナマ文書」流出のニュースだった。

あのときボスに嫌がらせをした投資ファンドは、たしかケイマンという場所に籍を置いていたらしかった。それはいわゆるタックスヘイブン(租税回避地)だ。

ケイマンのほかにバージン、バハマ、マンなどもタックスヘイブンにあたる。

ふうむ……そんな遠くの島がねぇ、日本の出版社という超ドメスティックな会社になんの用? タックスヘイブンではカンタンに会社の登記ができるというから、あやしげな人物が架空の会社を立ち上げ、そこを使ってボスの会社に接近したのだろう。

もうボス一族ではなくなった自分には関係ない出来事のはずだったが、しばし思いにふけったのだった。

世界の大富豪や大企業が、タックスヘイブンを利用し、自分の国に税金を払わず、逃げている。その証拠の一つである機密文書を、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表した(2016年4月)。

「パナマ文書」と呼ばれるそれは、パナマにある法律事務所(モサック・フォンセカ)が作成したもので、この事務所の取引情報が記されていた。それによると、かかわっている企業や個人はみな、オフショア金融センターを利用していた。

オンショアでなくオフショア。オフショアとは非居住者向けに税の優遇措置を認めた場のことで、そこをうまく使って脱税をしたと思われる大金持ちたちの名前が、いっせいにばれた。大金持ちは世界のあちこちに散らばっており、現職・元職の大統領や首相とその関係者、大企業、政治家、起業家など、バブルでがっぽり儲けたのだろう個人もたくさんいた。

そもそも問題とされていたのは、〈犯人が見えない〉ことだ。タックスヘイブンに設立された会社、そこに関わる人物が見えない、つまりそれを動かしている人物がほんとうは誰なのかがわからない。

――真犯人はどこにいる?