MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。テレビ番組のロケに参加した阿川さん。久しぶりに乗り込んだロケバスは快適そのもので、ふと昔の記憶が思い出され――。
※本記事は『婦人公論』2023年5月号に掲載されたものです

久しぶりにテレビ番組のロケに参加した。ロケとはすなわち、スタジオの外へ出て番組の内容に即した取材をすることだ。何年ぶりだろう。

ロケは基本的に大変である。早朝から日暮れまで、ときに一泊二日ほどの時間をかけ、テレビスタッフともどもあちこち訪ね回ってレポートをしたり、行く先々でインタビューをしたり、カメラの前で解説したり、身体を張って何かに挑戦したりしなければならない。どんなにオモシロおかしい番組であろうとも、けっこうなハードワークとなる。

フットワークの軽かった若い時分ならいざ知らず、寄る年波に腰が引けていたのは事実である。私より歳上のタモリさんやデヴィ夫人が積極的に取材に出かけておられる姿を見るにつけ、偉いもんだといつも感服していた。

とはいえ、「ロケはやりません!」と宣言していたわけではない。たまたま今回はタイミングが合った。同じ番組でかつて何度かロケの依頼をいただいたのにスケジュールが合わず、いつもお断りしていた引け目もある。一緒にロケをするのが爆笑問題の田中裕二君と聞いて、これは頼りになると安堵したところもある。

「はい、行きます!」

快くお引き受けし、当日、集合場所に到着する。と、担当ディレクターのN子ちゃんが、

「朝早くからすみません! でも、今回、アガワさんが参加してくださるって聞いて、みんな本当に喜んでます」

なんでじゃ? そんなに「ロケをしない」イメージが定着していたのだろうか。美空ひばりじゃあるまいし、私はそれほど大御所ではないぞよ。

それにしても彼女とて、私よりよほど早起きをして準備をしていたに違いないのに、なんと爽やかな笑顔であることか。お世辞半分としても、朝一番にそんなモチベーションの上がる言葉を出演者にかけてくれる若いディレクターの心意気に感動した。閉塞感漂うテレビ業界の希望の光だ。いや、今後の日本を明るい方向へ導いてくれそうな予感がする。

ちょっと大げさか。少なくとも、私も今日は頑張るぞという意欲が湧いてきた。