
MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。マスク着用義務も緩和され、分類も5類に移行。そんな中、コロナ陽性反応がでてしまった阿川さんは――。
※本記事は『婦人公論』2023年6月号に掲載されたものです
※本記事は『婦人公論』2023年6月号に掲載されたものです
マスク着用の義務は緩和され、旅行も多人数の会食も卒業式も入学式も国歌斉唱もできるようになり、分類が2類から5類へ移行しようというこの期に及んで、なんで? なんと間の悪い女であることか。
陽性反応が出た途端、頭をよぎるのは、その先七日間の仕事や会合の予定である。各所にスマホで伝えると、
「今さらコロナとはお気の毒……」
「あら、コロナ忘れかけていました」
「もうすっかりマスクなしに移動してたけど」
などと、もはや世間におけるコロナの脅威は確実に薄れつつある現実を叩きつけられる。そりゃ、そうですよね、今さらですよね。
思えば昔から流行に乗り遅れるタチだった。ピーター、ポール&マリーを好きになったのも解散寸前のことだったし、ビートルズの良さを知ったのは、はるか大人になってからである。ちなみにビートルズが来日したとき、私は中学一年生だった。あんなガンガンうるさいエレキギターを弾く歌い手は不良だと大人たちは眉をひそめ、私もそうに違いないと素直に信じたせいである。
仕事を始めたのは三十歳。仕事を面白いと感じ始めたのは四十歳。まさか結婚がこれほど遅くなるとは思っていなかったけれど、概して同世代から十年遅れて(もっとか)反応する傾向がある。