高齢の母親が施設で出会った男性に恋をした。田村由紀さん(仮名)は、母の恋心をほほえましく見守っていたが――(「読者体験手記」より)

毎週かかってくる苦情の電話で気が重い

一人っ子の私は、5年前から母と同居しています。正直、母のことは苦手でしたが……。

引き取る前の数年間、母は民間の介護施設で暮らしていました。私が膝の手術で入院中、近くに住んでいる叔父が、母に手を焼いて入所させたのです。時々面会に行くと施設長が、「食事の前に食器を並べたり、手伝ってくれるので助かる」などと言ってくれるのでホッとしていました。

ところが休日になると担当者から、「お話を聞いてくれなくて困ります」と電話が来るのです。ある時は、事務所の机の引き出しを勝手に開けたという苦情が。電話で母に注意をすると、「眼鏡の修理を頼んだのに、いつまでも直してくれないから、自分で眼鏡店に電話をかけるため電話帳をさがした」と言います。

数日後、私は施設と眼鏡店を往復して修理をしてもらいました。職員の方曰く、「眼鏡をかけているところを見たことがないから、急がなくてもいいと思った」。

母は職員や私の都合など、まるで考えていないのです。自宅を出てから帰るまで約8時間。もうぐったりでした。

こんなこともありました。母が同じ施設に入所している男性Mさんを好きになったのです。Mさんがとても親切にしてくれる、とうきうきした調子で報告してきます。心にハリができたようで、悪いことではないなと思いました。

職員の方も「ここは2人用の部屋はないんだよね……」と気にかけてくれます。とはいえ、結婚となると煩雑なこともあるでしょう。同じ部屋でなくても同じ屋根の下、笑い合ったり励まし合ったりできたら、それで幸せなのではないかと、私は思っていました。

ところがしばらくして、母は同じ入居者のK子さんを攻撃するようになりました。K子さんにストッキングを盗まれたと言うのです。話をよく聞くと、ストッキングが本当になくなったのかはわかりません。ただ、K子さんが母とMさんの間に割り込んで、からかったのは事実のようです。どの年代でもこういう人は現れるものだなと、おかしくなりました。

K子さんは母より高齢ですが、服装は華やかで、タクシーで買い物に行ける人。母は1人では外出させないよう施設に頼んでいます。普段から、母はK子さんをうらやましいと思っていたようですが、大事な人まで奪い取ろうとしているのかと憤慨したようです。だんだんと母は疑り深くなっていきました。

毎週日曜日にかかってくる母からの訴えの電話と施設からの苦情で、私は気が重くなりました。とうとう夫と2人で母を引き取りに行くことに。荷物を運んでいる時、エレベーターに乗り合わせたおばあさんが、「歳を取ればみんなそうなる」と言ってくれたのに救われました。