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その自由な音色と独自の楽曲解釈で、クラシック音楽シーンを席巻する若手ピアニストの藤田真央さん。2019年には弱冠20歳にして、3大コンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで2位に入賞。同年、恩田陸さん原作の映画『蜜蜂と遠雷』で風間塵役の演奏を担当したことでも話題になりました。以降、世界中からのオファーで今年も数多くのコンサートが予定されています。現在拠点とするドイツから日本へ帰国中にお話を伺いました。
(構成◎岡宗真由子 撮影◎本社 奥西義和)
はじめての一人暮らし
今年の4月から、ベルリンに拠点を移して活動しています。人生初の一人暮らし。ルーティンとしては、朝起きてピアノを練習し始め、13時から15時は小休止してその後はまた夜寝るまでピアノです。ドイツでは近隣に配慮して、昼過ぎの時間帯には、ピアノはもちろん洗濯機や掃除機も使わない慣習があります。
私の場合、13時から15時の間にはお料理をしていることが多いです。ほとんど自炊をしているので、買い物へも自分で行っています。日本と違ってスーパーにいつも同じものが並んでいるわけではないので、売っているものからメニューを考えられるくらいに成長しました。健康に気遣うというよりは、基本インドアな性格なので、友達と一緒でなければ外食せず自宅でゆっくり食べたい。炭水化物だけの時もあれば、揚げ物ばかりの時もあります。日本では生姜とニンニクのチューブを買って帰りたいですね。いつも自分ですりおろしていて、これがちょっと大変なので。(笑)
ベルリンの私の住んでいる地区は静かなところで、近隣の方にも恵まれています。引っ越した当日、先方から先に挨拶しに来てくださって、歓迎のしるしの塩とパンをくださいました。そして「あなたのピアノを楽しみにしている」という言葉をかけられたので、嬉しかったですね。
またある日のこと、ブラームスの1番のコンチェルトを練習していたら、家の呼び鈴が鳴りました。ご存じの方は分かると思うのですが、ブラームス1番は重厚な響きを特徴としている曲です。これはいよいよ苦情かなと思って演奏をやめてしばらく息をひそめていたのですが、もう一度呼び鈴が押されて…恐る恐る顔を出すと、階下の方でした。その方は「僕はこのブラームスの1番のコンチェルトで卒論を書いたんだ!今日はこの曲が流れてきてとても嬉しかった!だから挨拶に来たよ」と言ってくださいました。ありがたいことですね。