道が混み合っていて、車が現地に着いたのは午後七時四十五分頃のことだった。阿岐本と日村が『梢』を訪ねると、カウンターの中の男女が、あからさまに嫌な顔をした。
 白髪をきっちりと撫でつけている男性は、迷惑そうに目をそらし、同じくらいの年齢の女性は険しい眼を向けてきた。
 この二人がマスターとママだろう。
 彼らは、阿岐本と日村の素性を一目で見て取ったのだ。
 飲食店の経営者は、暴力団から迷惑を被ることが少なくない。ミカジメ料を要求されたりするからだ。オシボリや観葉植物のレンタルを強要されることもある。
 ママの顔つきが一瞬で弛(ゆる)む。
 日村たちに続いて、真吉が店に入ってきたのだ。
「あら、真吉ちゃん。いらっしゃい」
「あ、すいません、ママ。こちら、俺の上司の方々でして……」
「なんだ、真吉ちゃんの関係者? 早く言ってよ」
「阿岐本と申します。ママさんですか?」
「そうよ。エリっていうの。よろしくね。こちらは、マスターの榎木(えのき)。みんなはエノさんと呼んでる」
「真吉がお世話になっております」
「まあ、どうぞ。お座りになって……」
「実は、駒吉神社の大木さんがいらしていると聞いてやってきたんですが……」
 ママの表情がほころんだ。