「40歳手前頃から、自分のためだけじゃなく、誰かに責任を感じたくなってきた気がします。」(能町さん)

 

「ハンコを押すと責任が出てくる」

中村 私たちの結婚生活を真似して、恋愛関係なしの同居を始めた友だちも数人いたけど、ぜんぶ破綻したの。私は不思議に思ったけど、夫は「腹の括り方の問題よ」って言ってた。

能町 なるほど。

中村 「私たちも結婚してなかったら破綻してたかもしれない。お互いやりたい放題で、価値観も世界観もぜんぜん違うから」って。婚姻届にハンコを押す時に、「これを押したら、自分がこの人の人生を半分引き受けるんだ」と思ったらしい。まあ当時の私は、ブランド品を買いまくる買い物依存症だったしね。(笑)

能町 書類一枚で、やっぱり違うものなんでしょうか? サムソンさんも「ハンコを押すと責任が出てくる。責任って言葉が一番嫌いだ」って言っていました。私は「紙切れ一枚じゃん」って思っているんですけど。

中村 私もなんにも考えないで、ハンコを押しました(笑)。結婚なんて別に、いつでも撤回できる約束だからね。

能町 もう1回紙切れ出せば解消できますしね。(笑)

中村 ただ、同性カップルは法律上の結婚を認められていないから、ゲイの人の場合、重みが違うのかも。私はいい年になるまで責任とか覚悟とかについて深く考えていなくて、結婚を重荷とか束縛だと感じていた時期もあった。でも束縛っていうか、“重し”なんですよね。

能町 1回目の結婚の時ですか?

中村 いや、今の結婚でも“重し”だなと思います。うちも経済的には私が彼の面倒をみているし、「中村うさぎ」の夫であるせいで彼がつらい思いをするのもいやだしね。だから私には足かせみたいなものなんです。

『あとは死ぬだけ』中村うさぎ・著 太田出版

能町 恋愛感情がなくても、その感覚はありますよね。

中村 ただ、この重しは足かせであると同時に、地上に結びつけてくれるペーパーウェイトみたいなものでもある。ひらひらした私を、彼の存在がつなぎとめてくれているのかもしれない。

能町 ちょっとわかります。私も、重しみたいなものを求めにいっているところがあって。40歳手前頃から、自分のためだけじゃなく、誰かに責任を感じたくなってきた気がします。だから最近、猫を飼い始めたんですけど、それも一つの重しだと思っています。(笑)