現在放映中のドラマ『恋です! ヤンキー君と白杖ガール』では、視覚障害者のヒロインや盲学校の仲間の生活が赤裸々に描かれている。杉咲花演じる赤座ユキコは、たまたま出会った杉野遥亮演じる黒川森生との恋愛に悩みながらも一歩踏み出していく――という展開だ。現実の世界でも、夫は全盲の弁護士、妻は全盲の歌手で、結婚という決断をして、子どもを2人産み育てている夫婦がいる。かつて自叙伝がドラマ化もされ、全国で講演も行っている夫の大胡田誠さんと、妻の大石亜矢子さん、その子どもたちの日常にはどんな苦労があり、どんなふうに支え合っているのか。(写真提供=大胡田さん)
生まれたときから見えない世界で――亜矢子
1975年、私は、会社員の父の転勤先だった千葉県佐倉市で生まれ、2歳のとき、静岡県の伊豆半島の付け根に位置する沼津市に移り住みました。8月の出産予定日が2ヵ月前の早産で、男女の双子として生まれ、兄の吾郎は1400グラム、妹の私は1200グラムの未熟児出産でした。
1500グラム未満の極低出生体重児は、保育器の中で酸素を与える必要がありますが、当時は今ほど完璧には酸素の濃度の調整ができませんでした。 そのため、高濃度の酸素によって網膜が損傷する「未熟児網膜症」になり、私は視力を失ったのです。でも、同じように保育器に入っていた双子の兄は、 不思議なことに視力を失わず、目が見えます。わずか200グラムの差が兄と私の運命を分けたのでしょうか……。 ですから、私は物心がついたときから、「ものが見える」という感覚がどういうものであるかわかりません。
物の形は、触れたり、説明を受ければある程度理解できますが、理解不能なのは色の感覚です。こればかりは、どうとらえたらいいのかわかりません。私の中には色のイメージは存在しています。私の好きな色は、ピンク。かわいらしい、温かい、女の子っぽいといった イメージです。それらの色の好みは、毎日の洋服選びや身の回りの生活の場で活かされています。
最初は人というものが、どんなかたちをしているのか、まったくわかりませんでした。
相手の顔を認識する方法は、手で触れて、立体感や輪郭をつかむしかありません。全身の感覚を総動員して、相手を「観察」します。私は、両親やふたりの兄の顔も、指と手で触れて初めて認識することができました。