強がって精一杯カッコつけて

あるとき大きなライブがあって、わたしも健さんも一緒に出られることになった。

わたしは「嬉しい! 売れるかもしれませんね!」と、喜んだ。健さんは、「俺は売れたいわけじゃないから」みたいな顔してたけど、でもやっぱり嬉しそうに見えた。わたしたちは、このコタツから出てテレビの世界に行くのかも、と思った。

『厄介なオンナ』(著:青木さやか/大和書房)

そのライブは定期的に開かれていて、でもわたしは2度目は呼ばれなかった。売れるかもしれないと期待したエネルギーを返して欲しかった。そしてまたコタツの世界に戻った。

「青木はさ、次回のあのライブ、なんのネタやるの?」

と、健さんに聞かれた。

ああ、そうか、健さんは2回目呼ばれたんだ。そっか。いいね、呼ばれて。売れるかもね。ばいばい。早くコタツから出ていけばいいじゃない。

わたしは、「呼ばれてないもん」と泣きたかったけど、強がって精一杯カッコつけてみた。

「あー、健さん出れるんですね! わたし呼ばれてないですよ~、がんばってくださいね!」

余裕の微笑みで返した。健さんは、

「青木つまんないもんね~」

みたいなことを言ってきて、わたしは、それをそのときとても言われたくないことだったから、堰(せき)を切ったように涙が出て、スックと立ち上がり、

「わたしは、面白くないもん!」

と言って、コタツの上にあったサイフを、イヌの毛だらけのフリースのポケットに入れて、玄関に向かった。

「帰る!」

その様子を、イヌと健さんのお母さんが、ポカンと見上げていた。