優先順位が、働くことよりも上になった

なかでも離職への気持ちを大きく動かしたのは、祖母の余命が半年と宣告されたことだった。残された時間を提示され、今、なにもしなかったら一生後悔する。その思いが近藤さんを突き動かした。

「僕の中での優先順位が、働くことよりも介護が上になったんです」

会社をやめると告げたとき、妻はまったく反対しなかった。これまでいろいろな局面を二人で乗り越えてきたので、今回もなんとかなると思ったとか。妻も働いていて、生活費以外はそれぞれ別管理。そして近藤さんには、1、2年は暮らしていけるだけの貯金もあった。

会社をやめ、遠距離介護を始めてしばらくして祖母は亡くなった。今は、一人で暮らす認知症の母親の介護に通う。実家には1週間滞在し、2週間東京にもどって、また介護のために帰省するというパターンだ。

「実家にずっと住まないのは、妻と暮らす東京での生活を大事にしたかったから。母親をこちらに呼び寄せるつもりもありません。環境が大きく変わることは、認知症の治療にはマイナスですからね」

頼れるものは頼る、使えるものは使う。それが近藤さんの方針で、介護サービスを活用して態勢を整えられれば、通いでも大丈夫という。認知症がまだ軽度で要介護1であることも、母親の独居を可能にしている。

「介護を妻に手伝ってもらおうとは思いません。奥さんに介護負担をさせるのは昔の考え方。今は自分の親は息子・娘が面倒をみるという世の中にシフトしていますよ」

近藤さんは現在、介護などをテーマにブログを書き、広告収入を得ている。実家に通う交通費や介護費用は母親の貯金と年金から捻出できているので、会社員時代より収入は減っても、生活はちゃんと成り立つ。

「僕は退職し、柔軟に介護に対応できる働き方にシフトチェンジしました。会社をやめても収入を得る方法を見つけられたのは大きいです。意志をもって介護離職をするのも一つの選択だと思っています」

正社員の立場を捨て、介護に専念するのは覚悟も勇気もいるけれど、納得する介護ができたという達成感を必ず最後には得られるはずと、近藤さんは確信している。

仕事と介護のバランスは、三者三様。不安や迷いに揺れながら、あなたならどんな選択をするだろうか。