「私はお金は生かすためにあると考えます。一生懸命働いて得たお金を、自分の人生を快適にするために使う、これが生かすということ。貯め込んだって、お墓には持っていけません」

宝石とは無縁の生活をしている娘に

5年ほど前から、いろいろな銀行の方がわざわざいらして「夫人、どうなさいますか」ってプレッシャーをかけてくるのですよ。周りの方に聞くと、財産を持つおひとりさまの方に働きかけているんですって。

私に身寄りがなかったら、まるごと整理をお願いして、寄付先などを考える必要があったかもしれません。でも、私には娘のカリナも孫のキランもいるので、娘が困らないような遺し方ができればいいと考えています。

娘一家はロンドン在住。日本に住みたいという気持ちがあるなら、東京のお家も生かすことができますが、娘も孫もヨーロッパ育ちですからね。生活範囲がヨーロッパになる可能性のほうが高い。と考えると、日本にあるものはやはり売ることになるでしょうね。いずれにしても決めるのは彼女たちです。

私が当面できるのは、絵画や古美術品などのリストを作っておくことぐらい。契約社会のフランスだと、専門家に頼めば、すぐに所持品のリストアップをしてそれぞれの価値の査定もササッとしてくれます。でも日本では、自分で写真を撮って、リストを作る必要があるのです。手をつけ始めましたが、とにかく数が膨大なので……。

宝石は、全部カリナのところに行くことになるでしょう。でも、私の心配はね、彼女が宝石とはまったく無縁の生活をしていること。服装の趣味がまったく合わないの。とにかく私と比べられるのがいやで、私が美しいものを身につければ身につけるほど、あの娘は地味に地味になっていく。

大きい粒の真珠のネックレスは、アメリカでもヨーロッパでも社交界のパスポート。けれど、汗に弱くて、ちょっとでもお手入れを怠ろうものなら、すぐに美しい光沢が損なわれてしまう。宝石を譲る時は、あわせてお手入れ方法も丁寧に伝えないとならないでしょうね。

でも、ジュエリーにまったく関心がないというわけではなさそう。ある時、私のジュエリーボックスをチラリと見て、「これちょうだい」と言ってきたのが、大きなルビーにダイヤをあしらったブルガリのイヤリングと指輪のセット。見ただけで心華やぐジュエリーの魅力もわかっているのだな、と思いました。