「私たち、いずれ生理が終わるでしょ。生殖能力のない生き物が自然界に生きている意味ってなんだろうと、よく考えるんです」(高尾さん)

「あなたの体のボスはあなた」

西 抗がん剤投与が始まって間もないころ、インターンの医師に「漢方は抗がん剤の妨げになる可能性があるからやめてほしい」と言われました。実は私、がんの告知をされる前に自律神経の乱れからくる頻尿を漢方で治してもらっていて、抗がん剤治療中も体へのダメージを減らすために、毎週、体調に合わせた漢方薬を処方してもらっていたんです。

気持ちの支えにもなっていたので、医師に「漢方はやめたくない」と伝えました。そうしたら「OK! もちろん決めるのは加奈子よ。あなたの体のボスはあなただから」と笑顔で言われました。日本でよく言われる《自己責任》のニュアンスとはまったく違いました。

高尾 それも大事な考え方です。この30年でがん治療はすさまじく進化して、がんは治る病気になりつつあります。ただ、間違えてほしくないのは、がん治療の真ん中にあるのはガイドラインに則った「標準治療」だということ。

現代医学において、最善の方法が標準治療。命にかかわる最も重要なポイントを外さなければ、吐き気を抑える制吐剤や症状を緩和する漢方薬など、心地よく過ごすために何をするかは、それぞれの自由です。「あなたの体のボスはあなた」、その通り。

西 私にはBRCA2(*)という遺伝的要因があることが判明したので、予防的に両乳房を切除したんです。その際に、乳房再建という選択肢もありました。医師にはその場で「再建しない」と伝えましたが、あまりに即答だったので、「再建したくなったときのために乳首を残すこともできるよ」と。そう言われるとちょっと迷ったりもして。

そんなとき、乳がん経験のある看護師さんに「乳首って要る?」と言われて、ほんまやな! と思いました。40歳で出産して、母乳をたくさん作ってくれて、乳房にも乳首にも本当に感謝しかなかった。でも、もう授乳も終わったし、お別れしてもいいなってスッキリ思ったんです。

手術直後、手術痕を見て思ったのは「かっこいい!」。一瞬で新しい自分の体を好きになりました。今も毎日見てるけど、大好きです。予防的措置で今度は卵巣を取ることを決めていますが、それでも、私が私であることは絶対に揺らがない。これこそ私の体! って心底思えます。

*BRCA2遺伝子変異:遺伝性乳がん卵巣がん症候群のひとつ