今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『死ぬまで生きる日記』(土門蘭 著/生きのびるブックス)。評者は女優で作家の中江有里さんです。

生きて、自分について考え続ける

なぜ死にたい、と思うのだろう。著者は10歳の頃から35歳の頃まで、ほぼ毎日死にたい、と思い続けてきたという。本書は著者がカウンセラーと、死ぬまで生きるために2年間やり取りをした記録。希死念慮のない私が読んで理解できるのかと不安もあったが、驚くほどのめりこんだ。

カウンセラーとは対面ではなく、オンラインで対話する。顔は見せなくていいし、名前も仮名。1週間に1回、慣れてきたら2週間に1回の頻度でセッションは行われる。

〈大型連休が苦手〉〈憧れていた場所へ行くと怖くなる〉〈近い感情は、切なくて、寂しい〉。

著者が抱く「死にたい」に結び付く感情を、カウンセラーとともにひもといていく。一方的に悩みを打ち明け、カウンセラーが答えるのではなく、あくまで双方向。対話によって冒頭に記した「死にたい」の心理にアプローチしていく。

読み進めるうちに、セッションは読書に似ている、と思った。読書とは本から情報を得もするが、本を自分なりに読解し、自分で答えを導くのが深く「読む」ということだ。カウンセラー(本)は客観的にあらゆる物事を言語化して伝え、著者(読者)はその言葉からさらに意味を深く考えて、理解へとつなげていく。

カウンセリングを重ねていくうちに著者の「死にたい」は「帰りたい」という言葉に変換される。いったいどこへ帰りたいのか?さらなる謎が生まれ、著者とともに「帰りたい」場所を探す。そして行きついた場所は、私自身も求めていたところだった。

著者がたどった人生の苦難=過去は変えられない。でも過去を違う視点から捉えなおすことで、未来は変わっていく。

カウンセリングとカウンセリングの間にも、自分への問いかけは終わらない。考え続けることは生きているということでもある。

生きる居場所を探す人にすすめたい。